小説

『ミスターブルーバードをさがして』村山あきら(『青い鳥』)

 子供たちが世界で一番幸せになれる日の夜に、千鶴と弟の充は世界で一番不幸せな気持ちでした。
「信じられないわ。クリスマスなのにプレゼントがないなんて」
 先程、お母さんに今年のクリスマスはお祝いなしと告げられたのでした。
「ケーキも、ツリーもないよ!」
 姉弟はドンドンと不満いっぱいに足を踏み鳴らしました。
「私は世界一、かわいそうな女の子だわ」
「僕は世界一、かわいそうな男の子だよ」
 自分たちより不幸な子供たちは、きっといないでしょう。
 千鶴は悲しさで胸がいっぱいになりました。充は悲しさで涙がいっぱいになりました。
 「決めた!こんな家、出て行くわ」
「決めた!こんな家、出て行こう」
 外はもう真っ暗です。おまけに冷たい風がビュウビュウと吹いています。
 それでも二人の決心は揺るぎません。子供たちは勢いよく家から出ていきました。
 「おやおや、おちびさんたち。こんな時間にどこに行くんだい?」
 家々からこぼれる微かな明かりを頼りに夜道を歩いていると、ひどく腰の曲がったお婆さんに声をかけられました。
 真っ黒でボロボロのマントをまとった、みずぼらしい格好をしています。
 「私たちは世界一、不幸な子供なの」
 しわくちゃになったお婆さんの顔が、千鶴にはとても醜くみえました。
 「僕たちは世界一、かわいそうな子供なんだ」
 ごつごつとしたお婆さんの手が、充にはとても汚らしくみえました。
 二人はそのまま通り過ぎてしまおうとしましたが、醜くて汚らわしいお婆さんは、またまた話しかけて来ました。
「それでは、世界一、不幸でかわいそうな子供たちにいいことを教えてあげよう」
「いいこと?」
 子供たちはようやく、お婆さんの話を聞いてあげても良いような気がしました。
 そうして向かい合った時、お婆さんが実は美しい女性であることに初めて気が付きました。
「ミスター・ブルーバードを探しなさい。誰でも等しく幸せにしてくれる幸せの青い鳥さ」
「誰でも等しく幸せにしてくれる幸せの青い鳥…」
 なんて素敵なことを聞いたのでしょう。姉弟は急に元気が出てきました。なにせ青い鳥を見つければ幸せになれるのです。
「でも幸せの青い鳥はどこにいるの?」

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