小説

『ぼくたちの自由』大知牧(『八尾比丘尼伝説』)

「サムイよお前、死ねよ」
「いや、だから死ねないんだって」
「嘘でしょ絶対、ちゃんと死ぬって」
「……もし、本当に死ねないとしたらさ……」
 俺がゆっくりと切り出すと、岡島と由良が振り返る。
「……俺たち、世界が滅亡しても、ずっと生き続けるのかな……」
 岡島と由良は黙り込んだ。
 しばらく流れる沈黙。
「……俺さ」
 今度は間を置いて、岡島が切り出した。
「カメラマンになりたいんだよね。……戦場カメラマン」
「お前、カメラ持ってないじゃん」
「だから買うの。お金ためたら」
「知らなかった、そんなんなりたかったんだ」
「うん……なんか、思い出した」
「なれるんじゃない? なんつったって不死身だし、もってこいじゃん」
 岡島が笑う。
「だね」
「あー、俺もなろうかなー、やっぱ、舞台俳優」
 由良が明るく笑いながら打ち明ける。
「え?マジで言ってんの?」
「小さい頃、宝塚歌劇団見てさ、感動しちゃったんだよね」
「それ、ちょっとずれてる」
 笑い合う岡島と由良。
「……別に、不老不死じゃなくてもさ……」
 俺の言葉に、また岡島と由良が振り向いた。
「……なればいいんじゃない。俺たちあと、50年近くも生きられるんだから」
 沈黙する二人。
 しばらくして、空気が優しく揺れた。
「……うん」
「そうだね」
「そりゃそうだ」
 俺達はうんうんとしきりに頷き合い、再び空を見上げる。
 何もかも星空が知っている気がした。俺達の運命さえも。この先に何があろうとも。
「なんか……星がきれいだな、今日は……」
「うん、吸い込まれそう」
「俺たち……、こんなに自由だったんだな……」
 なんて美しい世界なんだろう。もし俺達に変化があるとしたら、これこそが人魚の魔法なのかも知れない。おっさんには悪かったけれど。

 学生最後の夏が終わる。
 そして代わりに、新しい夏がやってくる。
 帰ったら、こないだ大学を卒業した先輩にメールでも送ってみよう。
 社会人一年目はどうですかって。

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