小説

『拡散する希望』渋澤怜(『灰かぶり』)

 鏡の国でもないのにアリスが向かい合って座って、お茶を飲んでいる。
 白雪姫がチュロス待ちの行列に並んでスマホをいじっている。
 シンデレラとオーロラ姫が、きれいな模様の壁に交互に貼りついて、写真を撮りっている。
 なんか変だ、このランド。
 お姫様って、選び抜かれた人じゃなかったっけ。たくさんの中にいるたった一人の人じゃないの。こんなにごろごろ、芋洗いみたいに、犬も歩けば棒に当たるみたいに、いていいのか。いくらハロウィンだったとしても。
 平日なのにやたらと混んでる、グリムランド。唯一仮装が許されている短いこの期間は特にそうだ(普段はキャストと間違えられぬよう、また世界観を維持するよう、グリムランドキャラのコスプレが禁じられている)。ガチでコスプレに命を懸けてる人々が、おとぎ話のように作り込まれたこの地でフォトジェニックな写真をとるべく歓喜のおたけびをあげてなだれ込む、そうじゃなくてもなんかきゃぴきゃぴしたいというライト勢も押し寄せて阿鼻叫喚の騒ぎとなる。
 残酷な私の目は、映る者たちを素早く二分する。ガチとライトではない。自分をわきまえてる人と、そうでない人に。おそらく何晩もかけてこだわり抜いて作った自前のコスチューム、しかしキャラ選びは姫でも主人公でもないひょうきんな脇役、という、そこそこの容姿の女性を見つけると、ああ、わきまえてるな、素晴らしいと思う。逆に楽天で「ハロウィン グリムプリンセス」と検索して手に入れたペカペカのドレスを身に着けて写真を撮る女子集団を見ると、うわあ、わきまえてないな、頭悪そ、と思う。
 私のつれは、そこそこかわいい、いや結構かわいい女子ふたりで、何よりわきまえてるのがかわいい。コスチュームはそれぞれ、グリムキャットとクイーンビー。グリムキャットはこのランドのメインキャラであり、よく王道、ど真ん中をセレクトできるなあとは思うけど、このキャラ自体は男の子だし、そんなにぶりっ子感はない。仮装も、キャラに使われている色味に合わせたロンTとショーパン、プラス、ランドで調達したネコ耳カチューシャという感じで、控え目し、快活な感じのショートカットに合っている。クイーンビーは、キャラ自体はちょっとマイナーだけど、少年マンガとかによく出てくるちょっとセクシーな女悪役みたいなポジションで、コスチュームもちょっと露出が多い。こちらは、黒×赤の、胸がちょっと大きめに開いたレースつきカットソーと、ミニスカート、ハイヒール。耳はつけてない。黒の巻髪をおろして、黒のアイシャドウと赤いアイラインが少しだけ濃い。
 ああ、私のつれが、わきまえてる子でよかった。そこそこの大学に入ったから、クラスメイトがアホじゃなくて快適だ。
 やっぱり、かわいい子がちょっとはしゃいじゃいました的な控えめな仮装をするのが一番かわいいなあと思う。
 かくいう私は、
「へへ、お嬢さんがた、お荷物お持ちするザンスよ」
 ドンキで2000円で買ったザンスの着ぐるみパジャマである。黄緑色のコオロギを模した、出っ歯でゲスい小商人。フードにでっかい顔がついてるから、これを着るだけで仮装が成り立つ。

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