小説

『まんじゅう二十個食べる、めっちゃ怖い』ノリ・ケンゾウ【「20」にまつわる物語】(『饅頭こわい』)

「うまい!」
「うまい!」
「うまい!」
「うまい!」
 と四人が声を上げ、
「うまい…」と私が続いた。二つめも、どうやらセーフのようだった。とはいえ何がセーフで何がアウトなのだかがやはり分からない。二つ目を食べた後、田邊が「じゃあテンポよくいきましょうか」と言い、また掛け声がはじまる。三つ目のまんじゅうを食べる頃には、はじめ感じていたまんじゅうを食べることへの恐怖心が薄れていた。むしろ、私は恐怖心が薄れてきていることに恐怖を感じると言ってもよかった。しかし二つ目を食べた時点で、二十個のまんじゅうの内、半分を食べているということは、三つ目を食べる段階では五割以上の確率で、次に呪いのまんじゅうを食べるものがいることになる。実はこのゲームの大詰めどころとも言えるような気がしてくるのだが。それがテンポよく行く段階なのだろうか。訝しく思った私がたまらず、「あの…」と声を出してみると、四人の怪訝そうな視線が一斉に集まってきて、一瞬ひるんだ。どうしてこのタイミングで横槍を入れるのかという不満を隠さない表情だった。それでも私はかまわず続けて「三つ目のまんじゅう、ということは、なんていうかその、外れを引く可能性が高いっていうことですよね…」とここまで話したところで田邊が「外れじゃないです、呪いのまんじゅうです」と訂正をしてくる。なんのこだわりなのか物凄い剣幕で間違いを指摘されたので思わず、「あ、すいません…」と謝ったが、続けて、「でもその、呪いのまんじゅう、ですか、それを誰かが引く可能性が非常に高いのに、こんなぽんぽんと進んでしまって、いいのでしょうか…」という言葉がでてきて、そんなところを気にする自分が、いったい何を求めているのかは分からないが、その質問に田邊は無反応で、「それはナンセンスだよ、田邊さん。だってこのテンポが田邊さんのスタイルなんだからさ」と口を挟んできたのは宮部で、田邊さん田邊さん、言うからどっちがどっちだか少し分かりにくいながらも、ようは私が田邊の司会に口を出すのはナンセンスで、黙って従えということらしい。これから死ぬかもしれぬというのに、黙っていられるわけがない。と不満を感じたが、多勢に無勢か、私は意気消沈して、早くまんじゅうを食べてしまいたい、食べ切って外に出たい、というふうに心情が変化してしまった。
「まんじゅう!」
「まんじゅう!」
「めっちゃ怖い!」
「めっちゃ怖い!」
 と掛け声を大きく上げることにも、四人でうまくタイミングをあわせることにも慣れ、さっとまんじゅうを手にとり、それを食べた。誰かが死ぬかもしれない。そんなことを考える間もなく、まんじゅうを咀嚼した。
「うまい!」
「うまい!」
「うまい!」
「うまい!」
「うまい!」
 五人のリズミカルな声が、五人とも呪いのまんじゅうを引かなかったことを告げた。とうとう最後の一個になってしまった。最後の一個まで、呪いのまんじゅうが残るのは珍しいのではないか、と思って四人を見回してみると、四人も同じことを思っていたのだろうか、そわそわとお互いを見合っている。

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