小説

『20年目の暴走』佐藤邦彦【「20」にまつわる物語】(『美女と野獣』)

 ゴブバに至っては涙声でかき口説く有様。
 「大体にして、前から疑問に思っているんだけど、一体全体誰に観てもらう為の物語だって言うの!?」
 「姫!それは言ってはなりませぬ!」
 ラスンが叫ぶ。
 「姫って言わないで!ねえ誰に観せる為の物語なの!誰かが高次の世界から私たちを観ているの?そこはメタ世界なの?でもね、その高次の世界だって、その更に高次の世界から観られているかも知れないじゃない?これを観ている誰かさん、あなたの事よ。それに、私の脳内にもいくつか物語があるのだけれど、その世界にとっては私という存在が高次世界そのものじゃないの?それに私の脳内にある世界も、その下にある世界にとっては高次世界になるんじゃないの?つまり、どの世界だって、神であると同時に神の創造物でもあるんじゃないの?」
「ヒィーッ!姫!おやめ下さい!ヒィーッ!」
ボブバが悲鳴をあげる。
「でもね、神として高次世界にいるからって安心して観てられない時もあるんじゃない?今の私の様にキャラが勝手に動きだしたりして!」
「姫!お願いです。おやめ下さい。ウゥゥッ……」
ラスンが泣き出す。
「泣かないで!鬱陶しいわね。分かったわよ!じゃ、誰の為でもいいけど、物語を続けりゃいいんでしょ。続けりゃ!20年攫われ続け、年増姫にしてくれた誰かの為にね!どうせなら年月が経過しない設定にすりゃよかったのに!まったく、もう!」
 「おお!ご理解頂けましたか!グスン」
 と鼻をすすり上げながらラスン。
 「ええ。続けてあげるわ。但し、暴走しだしたキャラである私の思う通りにね!」
 「えっ!?」
 「えっ!?」
 意味が理解できず、呆けた表情をしている二人を無視してミルマが話しを続ける。
 「先ずは、あなた達二人だけど、実は幼い頃に生き別れた双子の兄弟って事にするわね。いいから!黙って聞きなさい!で、ボブバ、あなたはラスンに止めを刺されそうになったところを、身を挺した私に助けられるの。で、私の涙によってあなたは失っていた記憶と共に良心を取り戻し、私と結婚するの」
 「えっ!結婚ですか!?」
 「そうよ。誘拐されている間に私があなたに好意を抱いてたって事にするの。ストックホルム症候群ってわけ。監禁されて愛情が芽生えるとか、本来の自分を取り戻すとか、美女と野獣みたいでしょ?私のおかげで記憶を取り戻したあなたが、『魔王ではなく、お前の兄として死ねる。幸せだ……。』ってラスンに言うの。うるさいわね!どっちが兄だっていいの、双子なんだから。えっ?似てないって。二卵性って事にすりゃいいでしょ。まったく細かいんだから。で、力尽きようとしているあなたに向かって私が叫ぶの『いいえ、あなたは私の夫になるのです!』って。名台詞でしょ?まっ美女と野獣からのパクリなんですけどね。それであなたは元気になり、私と結婚して王を継ぐの。で、私は王女になるってわけ。ドゥー・ユー・アンダスタン?」

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