小説

『コンビニエンス・プレイ』宮本一輝【「20」にまつわる物語】

「喉渇いたし。いれたし。なんかもう、いいやって」
 自分が買ったわけでもないのにええ、とナツが不服そうな声を出したが、それに構わずリサは冷たいコーヒーを取りだしプルタブを引くと一口飲む。
「寒いわ」
 ぽつり、思わず呟いた。
「言ってるじゃん、そもそも寒いからなんか飲むって言ってたのに」
「わかってはいるんだけどね、なんかいける気がしたんだってば。飲む?」
 差し出された缶コーヒーをいらねーとおかしそうに笑いながら、けれど彼女はそれを受け取り一口飲んで、言った。
「ないなあ、一月のつめたーいは」
「ないね」
「ないない」
 二人はひとしきりないないと繰り返すと、揃ってくっくっくっと潜めたような笑い声を漏らす。
「凍え死ぬよこんなん」
「たった二十円足りなくてジェーケー二人死んだとか面白くない?」
「だせえ。超だせえ。たった二十円さんだよ、大安売り」
 たった二十円、たった二十円と言い合っているのをふと、これはシーソーみたいだと思った。押さねば跳ねないし、相手がそうでなければこちらから押せもしない。そうやって二人で無為に言い合ってるだけのものだと思っていたから、目の前で同じように二十円を繰り返している相手が何か思い出したように、それだけあれば、とぽつりと漏らしたのはリサは何かに躓いたような感覚だった。
「ん?」
「いや、ちょっと」
「ちょっと何」
「ヌガーが買えるなって、そんだけ」
 笑いの収まったナツは控えめに笑うとそう素っ気なく言った。
「ああ、好きだっけ。チロルのべたべたしたやつ」
「いいよね」
「私嫌い、ひっついて」
 切って捨てるような言い方ナツは不服そうに唇を尖らせる。
「おいしいのに」
「そういえばよく買ってたね。あとパクったり」
 非難混じりにリサが言ったその言葉にナツは小さく何度もうなずいた。
「そうそう、お金無かったし、よく向こうのほうのコンビニで」

1 2 3 4 5 6