小説

『雨の子供と午後3時』もりまりこ【「20」にまつわる物語】

「雫もこっち来てみぃ」
 嵐と雫は雨粒のついて窓を眺めていた。窓の外の子供をみながら、ふたりでいつのまにか、雨の雫を数えていた。
 また少し雨が降り出したのか、ひとつの粒がちかくの雨粒とくっつきながら、ひとつになって、ふとってゆく。
 その時、ゲームに勝ったみたいに嵐が叫んだ。
「ジャスト20!」
 数えると雨の粒がちょうど20個あった。でも嵐がそう叫んだせつな雨粒は数えきれないほど窓をたたいた。

「いまから、あっちに行ってくる」
「うん、行っておいで、待ってるから」
「もう、嵐大げさ!」
「だって、大げさチックだったよ今日の午後3時の雫さんは」
「ま、そうだけど」

 すたすたとプラスチックの棒を持って雫はフローリングを歩く。後すこしでとりあえず、答えがでるのだ。
 さっき見ていた雑誌のことを思う。あたりまえのことなのに、世界のいろいろな人たちがそれぞれの国で午後3時を暮らしていることが、はじめて聞いた異国の楽器に触れた時のざらざらとした手触りに似てどきどきする。

 世界ってって自問してなにかが渦巻いてゆく。知れば知るほど、しあわせもふしあわせも、あまたの戦いも、ひとしずくのへいわもいつもどこかで同時に起こっていることに愕然とする。

 でたらめの世界地図を描く。
 あてはまらないところにあてはめながら、1ピースを手の平に隠したままで。
 失われたものをみつけようとして、失っていなかったものまで見失わないようにって、いつか嵐がいってくれたことがあったことを思い出しながら、雫はドアを開けた。

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