小説

『花嫁の便り』倉田陸海【「20」にまつわる物語】

「ちょっとずつ」電話の彼女も最後にそう言っていた。目の前の少女が言ったように、この騒動を引き起こした彼らは確かに僕たちなのだ。変わらずにふくらはぎが好きな僕がいて、変わらない強い意志を持つ彼女がいる。
「帰ろうか」と僕が言うと、今度こそ彼女は頷いた。空にはお世辞にも満月とは呼べない、歪な丸さをした月がでかでかと浮かんでいた。ウサギは亀とのレースをとっくに終わらせ、いつの間にか月の住人となっていた。
「僕がふくらはぎを好きなことは秘密で。これからもあまり茶化さないでくれ」
 僕がようやくその情けないお願いをしたのは、二人一緒に路地を抜けて大通りに出た時だった。ずっと言おうと思っていたのだけれど、あまりに情けないお願いだし言うのに躊躇っていたのだ。彼女は一瞬なにかに驚いたような顔をしてから、にっこりと笑って言った。
「別にいいと思いますけど。それに、私ふくらはぎには自信があるんです」

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