小説

『成人式なんて思いやりのないものを毎年テレビで放映しないでほしい』岸辺ラクロ【「20」にまつわる物語】

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 成人式後の同窓会の会場に着いたときには、もう式の参加者はあらかたそろっているらしく、テーブルにはちらほらと飲みかけのビールや炭酸が置いてあった。
「おぉ。板倉じゃんか」
 声のする方を振り返ると岡本がいた。前髪を上げて立たせるスタイルが中学生の時から変わっておらず思わず笑ってしまう。懐かしい、というだけで笑いになるのだ。
「今、何してんの?」
「俺は大学生」
「俺もだよ。どこにいんの?」
「慶応」
「慶応? そんなにお前頭よかったっけ」
 僕は中学に途中からほとんど行ってなかったので、地元の友達に会うとよくこういったリアクションをされた。
「岡本は?」
「俺は理科大」
「岡山?」と僕が言うと岡本は笑った。その笑顔は中学の時と全く変わってなかった。その時に岡本の背丈も中学の時とほぼ変わってないことに気が付いた。
「東京に決まってんだろ。一浪して入ったけどさ、もう勉強漬けよ」
 苦い顔でそう言った岡本に笑いかけ、部屋をぐるり見回した。男は何人か、袴姿の者がいたが、同窓会ともなると女の子はみんなワンピースとドレスを足して二で割ったようなものを着ていた。美里はどこにもいなかった。
「……なぁ、美里って来てないの?」
 彼女の名前を出した瞬間に岡本の顔が引きつるのが分かった。
「……来てないんじゃないか」
 どこか他人事のようにそう言った岡本を見て、6年という歳月を改めて実感した気がした。美里の白いパンツを偶然見てしまったのは、五月の京都で。あの時もまた、薫風のせいで。 

 §

 彼女から初めて話しかけられた時、足元にピンクと言うには白すぎる桜の花がびっしりと落ちていたことだけは覚えている。隣には長い髪をツインテールにした女の子がいた。
「えっ。嘘。板倉くん」
 おかっぱという程ダサくなく、ショートボブと言う程には洒落ていない髪の、線の細い少女は僕のことを知っていた。というか覚えていた。茨城県の田舎だったから幼稚園が一緒で小学校は違っているけど中学校で再会、というのがよくあった。ただ僕は、小学生の時に三回ほどした転校のせいなのかはわからないが、幼稚園の記憶というものがほとんどなかった。だから中学校に上がった際、「久しぶり」と見知らぬ人に話しかけられて困ったものだった。
「美里だよ。覚えていない? 幼稚園一緒だったじゃん」

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