小説

『成人式なんて思いやりのないものを毎年テレビで放映しないでほしい』岸辺ラクロ【「20」にまつわる物語】

 若者の歓声と拍手が、会場を包んだ。拍手喝采というのはどこか雨のようだった。壇上では先ほど花束を渡した当事者の川口が、真っ赤な顔をさらに真っ赤にして照れている。たしか川口は井上とつるんでいた時期もあったはずだ。
「なぁ、お前さ美里に会いたい?」
 横にいた岡本が、だしぬけに僕に聞いた時、僕は気取った評論家がするみたいな拍手を壇上に送っていた。岡本は片手にグラスを持ったままだった。会いたかった。すごく。かけてやるべき言葉も見つからないけど。だけれども、僕の口から出たのは、
「いや、どうだろうな……」
 テーブルの上のぬるくなった炭酸の泡がちらほらと登っていくさまは、どこか白けた観客のようだった。

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