小説

『成人式なんて思いやりのないものを毎年テレビで放映しないでほしい』岸辺ラクロ【「20」にまつわる物語】

 青々と茂ったイチョウ並木の木漏れ日を全身に浴びながら、人生の勝者であることを見せびらかすように肌を見せびらかして歩いている女の隣の、どちらかといえばあか抜けていない女の子だった。少なくとも後ろ姿はそう見えた。ゴールデンウイークを開けたばかりの大学は目に見えて人が減っていたが、それでも休み時間の鐘がなると、蟻の巣に水を注いだみたいにわらわらとどこからともなく学生が出てきて、僕もその波に乗って帰るところで友樹にばったり会って、二人で勉強しようと図書館に向かっていた時だった。薫風と言うには強すぎる風が足元を駆け抜けて、前を歩いている二人組の女の子の一人のスカートをめくった。見た目の割に値の張らないスカートだったのか、値段の高いスカートでもそう言うことが起きるのか僕は今でも分からないのだが、ものの見事にスカートはめくれ上がった。眼鏡など必要のなかった当時の僕の両目は、そのカーキ色の決して短くはないスカートの下に隠されていた、からあげの衣がはがれて顔を出すような艶めいた肉感の脚と、そして少しだけ食い込んだ、しりを覆う白いパンツをはっきり捕らえた。間違いない、白だった。
 ふと、15の修学旅行のことを思い出した。
 気が付かないはずがないと思うのだが、僕の前を歩いていた女二人は何食わぬ顔で、何も起こらなかった体で話しながら歩き続けた。思わず回りを見渡したが、その奇跡を目撃したのはどうやら僕一人みたいだった。
「今の見た?」
 隣で歩いていた友樹に聞いた。彼は手に持っていた計量経済学の教科書から顔を上げて僕を見た。
「え、何が?」
「いや、あのカーキ色のスカート、風でめくれた」
「いや、そんなの見てやんなよ」友樹は邪険にそう言った。彼は高いレベルでイカれてる。
 図書館に入ろうと、イチョウ並木道を右に曲がろうとする友樹に「ちょっと、待ってて、いや、先入ってて」と言い残して、小走りでカーキ色のスカートを追いかけた。遠い記憶を呼び起こした白いパンツと肉感のあるしりの持ち主の顔がどうしても知りたくなった。
 白パンツ女を目でとらえて走り出したが、見つけた時には、並木道を下った先の綱島街道をまたぐ横断歩道を彼女たちは走って渡っていた。青信号は点滅していて、僕は周りの目も気にせず本気で走りだしたけど、横断歩道の三メートル手前で信号は赤に変わり、すぐに両側二車線の綱島街道には水が流れるように絶え間なく車が流れ始めた。白パンツの彼女は、駅の改札を出入りする人々の群れに吸い込まれていく。彼女の横顔しか見えなかった。白人のように鼻が高く、意外なほどに大人びた顔だった。

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