小説

『また、20時。』柿沼雅美【「20」にまつわる物語】

 え、ごめんよく分からない。私がそう言うと、父はため息を落として、母はソファに座りながら何も聞こえていないような顔でテレビに向いていた。だから、ゆりかには悪いと思ってるけど、お父さんとお母さんは別々に暮らすことになったんだ。手の甲に落ちたため息を包むように不自然に父は左手の上に右手を置いた。そもそも、お父さんは秋宏だしお母さんは敬子で苗字が同じになっても結局は他人だったんだから、でもゆりかはお母さんとお父さんと血が繋がってるんだからね、自分の意志で色々決めていいんだからね、とソファから声が飛んできた。だから、ごめん何言ってるかよく分からない。私がさらに言うと、父は、ゆりかには悪いと思ってるよ。と、もはやそれはどうでもいいと言いたくなるような答えしかしなかった。

「と、いうのが先月のハイライト」
 そう言いながら六本木ヒルズのファストフード店でポテトを口にいれてカフェラテのカップに口をつけた。
「ゆりか塩こぼした」
 舞が胸元に手を伸ばしてパッパと払ってくれる。胸ポケット付けた卒業式用の小さな花が安全ピンからズレて斜めになっている。
「でもまぁゆりか冷静な感じするね」
 佳奈が言いながらシェイクを飲む。佳奈は3年間ずっとあったかくなるとシェイクを頼んでいるのを思い出した。
「うん、なんかね。家にいてもお父さんとお母さん二人のときに何話してるかなんて私も興味なかったしさ、気づかなかったって言いつつ、びっくりもしない、みたいな?」
「でもちょっと寂しくない?」
 舞が遠慮しがちな目で聞いてくれる。
「寂しいっていうか、そっかぁって感じかな今は。どちらかっていうと、もう明日から高校生じゃないっていうほうが寂しい」
 そう言う私に、それな、それね、そだねそだねー、と二人が力強く頷く。
「ねぇさっき気になったんだけど、ゆりかお父さんに別居?離婚?告白された時の反応、ごめんちょっと何言ってるかわからないってやつ、お笑いの真似っしょ?」
「あ、わかった?」
「マジで!ゆりか何してんのそんな深刻なときに」
「いやだって、頭に真っ先にそれ浮かんだんだもん。2回も言ったのに親全然気づいてなくて、突っ込んでもくれなかった」
「いやいやいやいや、ゆりか強すぎでしょ」
「そうかなぁ。笑って話してもよくない?って思ったんだけど、お母さん顔ヤバかったしお父さん目合わせないしでツラみだった」
「ツラみポイントそこじゃないっしょー」

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