小説

『ボクと彼女とアキのこと』島田ひろゆき【「20」にまつわる物語】

 いつ?いつ?思いもしなかった言葉への返事を用意していなかったボクは困ってしまう、断られた時の惨めな気持を慰める自分への言葉は用意していたけど。それでもボクから、どうにか「今週の土曜日はどう?」という言葉が出てくる。
「土曜日はダメだなあ・・」彼女は上の方を見つめる、それから「じゃあ、日曜の午後はどう?午前でここは終わるから」と言う。

 日曜日の午後に彼女がボクの家に来る。携帯電話の番号を教えあい、彼女は駅についたら電話をかける、と約束をする。今、彼女の電話番号がボクの携帯に登録されているということが信じられない、でも、それは事実で、ボクはレコード屋から歩いて帰る時に何回も携帯電話に彼女の電話番号があることを確認する。

 ボクは「500日のサマー」のDVDを買うために、レコードが買えなかったアキにはお金があるはず、と思い、アキにお金を貸してほしいと頼んでみる。
「何に使うの」
「何かに」
「言わなきゃ貸さない、言っても貸さないかも、場合によってはね」
「マジ?」
「マジ。マジもマジ、わたしのお金だもん」
 ボクは溜息をつく。「映画のDVDを買うんだ」
「映画?あんた映画、好きだっけ?」
「好きだよ」
「何て映画?」
「500日のサマー」
「この前、見ていたやつじゃん」
「欲しいんだよ」そう言ってから、ああ・・本当のことを言わなければお金を貸してもらえないな、と思う。「今度の日曜日に友達と一緒に見る約束したんだよ」
「友達?」
 また、本当のことを言わなければならない。
「女の子の」
「またレンタルでいいじゃん」
 レンタルのDVDを見せたら嘘になる。
 ぼくが黙っていると、アキは鼻で笑ってから「いいよ」と言い「そのかわりに明日、機材とレコードをクラブに運ぶのを手伝って」とつけ加える。

 
 ボクはまたレコードが入った紙袋を両手に持ち、ツマミがたくさんついている機械(音を調節するものだと思う)を入れたカバンを背負い、アキの後ろを歩いている。

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