小説

『リーリエとジーリョ』イワタツヨシ(『ジキルとハイド』)

「行くってどこへ?」
「仲間のところだよ」
 そう言って、リュカはその場から立ちさった。そこに小型機とリュークを残して。

6
 その大戦争で反乱軍は敗北を喫していた。その僅かな生き残り、リュカは、未だ行方知れずのジーリョの生存を信じ、彼からの指示を待ちつづけていた。
 西暦2057年、その夜空に、リュカは変わった、見覚えのある光を見つける。黄と緑のライディングライトの光。
 しかし飛行船は二機とも機体から炎上し煙を引いていた。間もなく、そのうちの一機は、上空で爆発して吹きとび、もう一機は、降下していたが、彼がその墜落を見ることも、墜落の爆発音を聞くこともなかった。

 その出来事の後、ジーリョからの伝達がある。リュカはその信号を感知し、認識する。
「広範囲に亘り散じた百の卵を手に入れること」
 それがジーリョからの指示。
 再び伝達により、その百の卵を彼は映像として見る。
「これが卵」とリュカは呟く。
 しかしそのとき同時に、彼の中で不具が生じる。余計なノイズ、焚火の炎、夜空の星座……それは何か昔の記憶のような。
 それも一瞬のこと。リュカはジーリョの指示に従うため、動きはじめる。

 これがジーリョの第二の計画。そして、長きに亘り続くことになる、ジーリョとリーリエの、卵(パール)を巡る戦いの始まり。

7
 西暦2060年、その時代に、パールのことを知らない人間は一人もいなかっただろう。実態ではなく、存在という意味で。
 そのとき世界には、「氷山賊」や「氷海賊」と呼ばれる者たちがいた。その集団は、僅か三年の間に数を増やし、集団によって善悪の違いはあったが、共通した目的として、どの集団もパールを探しもとめていた。
 それが人々に知れ渡った理由の一つには、リュカたち(ジーリョ側のアンドロイド)が執拗にそれを探しもとめていたこともある。それに人々も影響を受けて欲しがった。連鎖だ。物事の価値とは、単純で、そうして付けられていく。

8
 ジーリョ側のアンドロイドは、パールを手に入れると仲介人に預けた。その仲介人を介してジーリョに届けられる。
リュカは、それを手に入れるために手段を選ばなかった。少しでも拒むものなら、すぐに手をかけた。多くの人間を殺していた。

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