小説

『ボックス』イワタツヨシ(『パンドラの箱』)

 西暦2051年、地球で、マイクロチップが起動し、一部のアンドロイドが反乱を起こす。

 その後、「百の卵を地球の悪人に接触させて、その卵が孵化する未来で、彼らと地球を征服しよう」と企むジーリョと、それを阻止しようとするリーリエの、百の卵を巡る戦いは、長きに亘り続いた。

 やがてジーリョを追いつめ、捕らえるときが来た。リーリエは彼から百の卵を全て取りかえした。そして、それをどこか特別な場所に閉じこめた。
 なぜ卵を閉じ込めたのか。それは、それら卵はすでに地球人との接触を持ってしまっていたからだ。再びジーリョのような「悪人」が卵から孵化することを恐れていた。

12
 この星に帰還したリーリエは、百の卵をどこに閉じこめたのか、そのことを誰にも話さなかった。そして、この星の人間は誰も知らなかった。
 多くの人たちは、それはきっと地球のどこかだろう、と考えていた。あるいは、どこかの惑星。実際に、百年の歳月が流れて、その百の卵から孵化した子どもたちを見かけた人間は一人もいなかったから。

13
「その卵から孵化したのが僕たち……」ジェリーが言った。
「たぶん、そうだと思う」と、レインが言った。「その箱を僕が見つけて、開けた」
「何もしないよ」ジェリーは言う。「レインは僕たちがどういう人間か知っているだろう?」
「知っているよ」レインは答える。「でも、悪い人間もいただろう?」
 ジェリーは頷く。しかし納得がいかない。「でもそれは当然だろう。いろんな人間がいる。善人も、中には悪人だって」
「いや、それは違う」と、レインははっきり否定した。「本当に、この星には昔から善人しかいないよ」
「僕たちのことを知ったら、この星の人間はみんな、僕たちのことを怖がるかな?」
「そうだね」
 この星の人間に見つかる前に、元の箱に戻るべきだ、とレインはジェリーを説得する。
「きっと、きみたちはあの箱で監視されていて、テストされている。それで合格した人間だけがこの外の世界に出られることになるだろう。そのときが来たら、僕もきみたちの味方になる。だから」と。

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11