小説

『海の踊り子』洗い熊Q(『羽衣伝説』)

 突き抜ける蒼空は穏やかだった。
 緩やかに追う潮風。
 潮気に晒され黄味帯びた大きな帆布が、響くように靡く。
 船首に波打っていた深い藍色が、鮮やかな淡い群青色に変わる時だ。
 目の前には、私が生まれ育った岬が見えてくる。

 遠浅が続く海岸。帆船が座礁する事もある。
 その浅瀬の為か、この岬の海流は優しげだ。船底が着かない幾らかの深みが存在する場所に大きな港がある。
 穏やかな気候。緩やかな海流。
 近隣の国々の商船が中継地として行き来し、立ち寄るこの港は貿易が盛んだ。

 だが、開放的な印象の港と違い。
 国の人々は閉鎖的だ。
 “仕来り”という錨に繋がれた国だ。
 それが私の故郷なのだ。

 
 船上の船員達が縄を担ぎ、縮帆を進める。船は減速し、ゆっくりと港がある湾へと入って行った。
 行き足が止まった所で錨を降ろし、連絡の艀を出される。
 急ぎではないものの、私は先発の艀に乗せて貰えた。
 混雑した港を避け、白い砂浜が続く海岸へと艀は向けられていた。
 小さな船着き場がそこにはある。人が上陸するには十分な。
 行きがてらに艀は白い砂地が美しい海岸を横切る。
 幾らでも続く浅瀬。沖に向かって歩くも、人が小さく見える程に離れても深さは膝上ぐらい。
 ようやくと朝陽が昇りきり、日射しを睨まずに済む高さになった時だ。私の乗せた艀が海岸を横切る。
 その海岸に佇む、若い女性を見つけたのは。
 女性が何者で。何を為ようとしているか。私には一目で分かっていた。

 彼女は舞いを踊ろうとしているのだと。

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