小説

『母とパとブとポ』三日蘭(イタリア民話『悪魔と三人のむすめ』)

 或るところに、母と娘三人がいた。娘の名は上からそれぞれパ、プ、ポといった。
「お母さん、私、結婚するの、結婚するの」パが言った。
「結婚、するのです」プが言った。
「それは、結婚なのです。けっこん。けっこん」ポが言った。
「結婚というのは、神聖なものなのです」
 娘らは声を合わして言った。
「結婚しないと娘は女になれないのです」
 娘らはさえずるように言った。
 母親は窓を見ながら舌打ちして
「ああまた雨が降ってきた。洗濯物が乾かない」と言った。
「銀色の鼻をした人が」パが言った。
「私のスカートの裾をちぎったの」プが言った。
「私、結婚しなきゃならないの」ポが言った。
 母は膝をさすった。「部屋に干すとえらく蒸す。そうするとまた赤い胃が痛くなる」
「あの人は私の足の親指を舐めて、綺麗な足だといったの。こんなに毛むじゃらの足なのに。羊の脂のような臭いのする人だけれど、金色の産毛の群がる腕の刺青が、月のように青くて、廃墟にしたたり落ちる一粒の水滴の音のような、哀しい人。私、結婚するの、結婚するの」パは平凡な顔をくねらせて言った。
「牛乳がもうないね。犬の散歩のついでに買ってこなければ。こらっ、おりな。おりな。おりるんだよ。この犬は何て馬鹿だろう。また、机の上のものを食い散らかした」
「お母さん、私には白い羽根がないから、どんよりした灰色のとかげのように這いつくばっている。体をうねらせて動くごとに、臓器もぐらぐらうねる。蛇の胃はなんて長いのだろう」プが平たい胸を震わせて言った。
「雨が降るとそれは退屈な日だ。じめじめと犬も汚れて部屋も汚れて。今日はいかを料理しなければならない」母親はまた窓を見た。
「ほら、首筋にあの人の歯型。一本欠けているのは大きな強い男と戦ったときに折ってしまったから。大きな男は二本折ったのに、あの人は一本しか折らなかった。大きな男は毛だらけで、ごむまりのようにはねて逃げていった。何故だろう、草原に立つあの工場は、青い煙をはいていた。私は結婚しなければならない。結婚しなければならない」ポが大きすぎる身体をもてあまして言った。
「風呂のタイルの垢を取って、包丁をといで、食器棚の薄い埃をなめとったら、さあ、いかを料理しなければならない。いかはどろんと濁った目で私をじっと見て、私は仕方なくにらみ返す。頭に手を差し込んで、ぐっと足を抜き取ると、頭から臓腑がずるりと落ちる」

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