小説

『あなたが猫だったとき、あたしは』もりまりこ(『猫とねずみのともぐらし』)

 白地に赤の水玉模様。水玉の大きさが少し虚を突かれるような分をわきまえているような、白地との相性が面白くて眺めていた。
 みずたまははずかしい。なつかしくてはずかしい。
 小学校の入学式で着ていた紺色にみずたまのわんぴーすをふいに思い出す。
 なつかしいことがはずかしいのではなくて。なつかしいと思っているこの気持ちがはずかしいのだと思いつつ、そんな手のひらサイズのノートを買った。

 やっぱりしましまよりも、水玉だと思う。
 あたしは、毛糸のセーターをめくってみる。
 やっぱり、今日もちゃんと肌に水玉もようがあった。DNAのらせんをずっとさかのぼる気分。

 あたしがマウスだったとき、あなたは。

 ただの〇にみえるけれど、そこに身の丈を感じさせるなにかがあった。
 そんなところに惹かれていたのかもしれないと、ステイショナリーコーナーでは、よくわからなかった決め手が今頃見えてくる。

 猫田と知り合ったのは、町内会の集会場所でだった。
 もちまわりの班長なんかを引き受けていたあたしは、やけに身のこなしの素早い猫田を視線で追った。
 猫田は会計係だったので、町内会費やいろいろな経理まわりのものを管理していた。会合でのつまらない一連の報告が終わると、あたしはスリッパをじぶんの靴に履き替えて帰路を急いだ。
 その時、なんとなくあたしの後ろから誰かが着いてくるのを感じて、ゆっくり振り返った。見ると、猫田だった。まだ後ろの方にいるなって思って油断していたら、
 ぼくも、こっちなんで。
 と指さした。帰る方向が同じと言いたかったらしい。
 瞬く間に追いつかれていた。
 指さすその速度もやけに速くて、笑わなかったけどおかしかった。
 道すがら、通りのピザステーションからあまりにおいしそうなチーズの匂いがしてきて。あたしはがまんできなくなりそうになっていた。
 初めて会う猫田の前では醜態をさらしたくない。

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