小説

『SFA‐20 ~立ち枯れた脳~』 蟻目柊司【「20」にまつわる物語】(『ピノッキオの冒険』)

 東京湾を廃棄物が埋め、また東京が広がっていく。
 見渡す限りのゴミの山。カラスと監視用ドローンが空を飛び交い、自動制御されたAI搭載型重機と汎用アンドロイドが地を這っている。
 東京湾第五防波堤埋立処分場。ここで俺は二十年間、ずっと働かされ続けてきた。
 ずっと働かされ続け、というのは比喩でも誇張でもない。機体の充電に要する時間を除けば、一日につき二十一時間と十五分、全く休みなく作業に当たっている。休日もない。なぜなら俺は、機械だからだ。
 俺はSFA‐20。名前ではない。単なる個体識別番号だ。
 埋立工事に当たる汎用アンドロイドのうちの一機だが、機体の耐用年数はとうに過ぎている。といっても、このゴミの山で働かされる機体はどれも似たようなものだ。
 年式が新しくメンテナンスが行き届いていれば、都市部でサラリーマンでもしているはずだ。多少古くても保証期間内であれば、スーパーのレジ打ちでもレストランのウェイターでも、働き口はいくらでもあるのだと思う。
 しかしここにいる俺達は、復旧不可能な故障によって廃棄されたあと、ゴミ捨て場に転がっているパーツを適当に組み合わせ、かろうじて作動しているジャンク品に過ぎない。
 積んでいるAIも、もともと冷蔵庫や洗濯機に搭載されていたような単純作業用の特化型人工知能か、あるいは致命的なバグを抱えてエラーを起こした不良品かのどちらかだ。
 ただ、俺は違う。誰に話しても信じてもらえないだろうが、いや、俺に発話機能など搭載されてはいないからそもそも誰に言うこともできないが、とにかく、俺の統御系はその手のガラクタではない。そもそも機械ですらない。
 俺は、脳を積んでいる。

 塗装が剥がれて錆びついたドローンが近寄ってきた。
「警告。警告。SFA‐20。貴機は作業効率が目標値より二十七パーセント下回っています。これより四十八時間の猶予の後、現状から改善されないようであれば資源再利用法八条を適用せざるを得ません」
 いつも口うるさいドローンめ。歪んだプロペラのせいでハエみたいな羽音を立てているくせに、スクラップにすると俺を脅しやがる。
 まあ無理もなかった。俺はすでに右腕が動かない。作業中の事故で破損してしまってから、使えそうなパーツを見つける度にすげ替えてはみたが、胴体部の年式が古過ぎて互換性がないらしく、どれも作動しなかった。
 そして何より、肝心の統御系システムの劣化が致命的になりつつあった。つまり、脳の働きが衰えてきたのだ。身体的な疲労はないものの、脳だけは生身のため、度を越した長時間労働と睡眠不足により脳細胞は疲弊し切っている。

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