小説

『午前六時、二十インチマン』豊臣ヒデキチ【「20」にまつわる物語】

午前六時。漸く空がいつも通りの顔になる頃。
 朝だけは早い。
 アラームはかけないけど、決まってこの時間に目が覚める。
 寝間着から華麗に私服に着替える。
 その姿はケツァールのように優雅だと言われている。
 父親に。
「うむ、今日もケツァールの様に優雅だね。」
 自分の部屋からリビングに移動して、コーヒーを入れる。
 その匂いと雰囲気に僕は酔う。
 酩酊する。
 クラクラして足が覚束ない。
 まるで蝶のように舞い蜂のように刺すボクサーの様だと言われている。
 母親に。
「あら、蝶のように舞い蜂のように刺すボクサー見たいね。」
 コーヒーを飲んでいい感じな気分になったところで、朝食を食べる。
 父親、母親、妹がテーブルに座り、四人で食べる。
 僕の足元にはミニチュアピンシャーのミッシュが、物欲しげな目で僕の口からこぼれ落ちる何かを狙っている。
 僕は一つも口からこぼさず、ミッシュの期待をこれでもかというくらいに裏切ってやった。
 だって当たり前だろう。
 人間のものを食べたら犬は病気になりやすくなってしまう。
 これも愛情の一つなのだよミッシュ、わかっておくれ。
 そんな光景を、玄関口に繋がれたラブラドールのマフィンが顔を床につけて、情けない表情でこちらを見ていた。
 彼はとにかくでかい。
 もう熊なんじゃないかってくらいにデカイ。
 デカイというよりデケェ。
 色もチョコレートみたいで、より一層。
 だから玄関に紐で繋がれているのだ。
 僕は朝食を食べ終わり、ソファで朝の情報番組を見ている振りをしながら新聞を開いて、活字を読んでいる振りをしていた。
 そしてそのあとスマートフォンで株の上がり下がりを見て、わかっている振りをした。
 その姿まるで、フランク・アバグネイルの様だと言われている。

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