小説

『20 minutes.』西橋京佑【「20」にまつわる物語】

 指を切り落とすなんてやっぱり馬鹿らしくなって、僕はホログラムの目玉に向かって包丁を投げつけた。包丁はそのまま通り過ぎて、目玉は相変わらずギョロギョロと行ったり来たりしていた。それでも、僕は満足していた。宣戦布告としては、十分意味をなすだろう。AIなんて、やっぱりクソくらえだ。

 
 翻って現実。現実世界も真夜中が近い。
 私はそっとパソコンを閉じる。ここまでの長い長い空想をネット上に書き込み終えると、深夜にも関わらず玄関のドアを誰かがノックした。
 開ける前に、私はそこに誰がいるのかが既に分かっている。AI推進に反対するような意見は、すぐに思考警察が取り締まりを行うのだ。思考犯罪は、殺人に匹敵するぐらいに避難を浴びせられる。
 しかし、監視社会はいまに始まったことではない。私は何度もAI批判をネットに書き込み、その度に思考警察からのハッキングによって、パソコンに格納された機密の情報が破壊尽くされてきたのだから。
 私は包丁を取り出してきて、刃先をそっと自分の小指の腹にあてた。空想のマギーが言っていた、ICチップを取り出すのだ。
 ドン、という音と同時にドアノブが拳銃で壊された。もう、時間はない。切り落とした小指をそのままに、裏口から急いで逃げ出した。
 今日が終わるまで、あと20分。外はいつもより暗く静かだ。明日から、大罪人として指名手配され、逃げながら生きなければならない。なんの罪なのか、私はきっと一生理解できない。
 小指の腹がないだけで、普通の人間として生きていられるのも、あと残りわずか20分だった。

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