小説

『勝てない少年』鷹山孝洋【「20」にまつわる物語】

 水平線、なんてものを見飽きるのは、海岸沿いに住む人々だけではないらしい。
 青い空、そして光を乱反射する海のような足元。たったそれだけがどこまでも際限なく伸びるその場所は、間違いなく無限の世界である。水平線を見ようとすれば、そこかしこどころか360度、嫌になるぐらいに見事なソレを見る事ができた。
「いちについてぇ~……」
 そんな水平線だらけの世界で、真っ白なワンピース一枚の少女が、左足をゆっくりと後ろに引くと前傾姿勢になる。そうして隣の少年に合図したつもりなのだが、彼は溜息一つつくのみだった。
「よぉ~い」
 しかし少女はおかまいなしにと、更に姿勢を低くする。完全にトップスピードで一着ゴールインを狙う体制だ、ゴールなど決めていないが。
 そもそも、少女がいるこの場所において、ゴールラインを決めるのは非常に難しい。そろそろこの場所で十八年ほどの暮らしになるのだから、いい加減に学習してほしいものだが。少年が溜息をついているのは、それが理由の大半だった。では、もうごくわずかな理由は何かというと。
「どんっ!」
 少女が走り出したのに合わせて、少年もやれやれと足を進める。一応長い付き合いの少女なので仕方なくではあるくせに、この少年、意外と意地悪である。
「あのさぁ」
 少年は言いながら、少しずつ足を速めていく。少女の隣に並んだ。
「いい加減、この力量の差を自覚してよ」
「や~だぁ~」
 言いながら、少年にサラリと追い抜かれる少女。そう、ごくわずかな理由の正体は単純、少年はとてもかけっこが得意なのだ。
「ああっ!?」
 少女の叫び声に合わせて、少年がクルリと振り向く。目が合った瞬間、始まるのは恋でもなければ運命でもなく。
「じゃね」
 とことん意地悪な少年の、追い打ちの言葉だった。
「……う」
 と、そんないつも通りの少年の追い越しに、プクッと頬を膨らましたくなる少女。実際にそんな事してられる程余裕は無いので未遂なのは当たり前だが。
「ううぅぅ……」

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