小説

『ハタチの覚醒』中杉誠志【「20」にまつわる物語】

 時間操作。一年限りの能力。ばあちゃんは、その力を使って努力した。そして大学に入った。
 努力か。努力ねえ。
 でも、とりあえずわたしはもう大学入ってるし。それほど痛切に勉強する必要性を感じない。っていうか、受験勉強の地獄を経験してるからもうたくさんって感じ。
 それよりは、もっと楽しい使いかたをしよう。時間操作で楽しいことといえば、そうだな。
 時間を止めて、好きな男の子にキスしまくる、とか? なるほど、そういうこともできてしまう。悪くねえな。イケメンむさぼり放題じゃん。
 でも、それはなんかショボい。せっかく便利な能力を手に入れたんだから、もっとでかいことに使わないと。だって、うまく使えば世界征服すらできそうな能力じゃん、時間操作なんてさ。
 と、そこで思いついた。
 そうだ。今年はオリンピックがある。東京オリンピック。なら、大会の開催直前と終了直後で、オリンピックに関係する会社の株価が乱高下するはずだ。それを前もって見ておいて、時間を戻して、高騰する株を買いまくって、適切な時期に売ればいいんだ。それで簡単に大金持ちになれる。二十一才になったら能力はなくなるのかもしれないけど、口座のなかのお金はなくならない。
 これだ!
 へへっ。ばあちゃん、時代が違うんだよ。今時努力なんか流行らないって。楽して儲ける。これがいまの時代の正義。金さえ稼げば、努力なんかしなくたって、なんでも手に入るようになる。イケメンなんか金につられて向こうから寄ってくるだろうし、好きなもんいくらでも買える。
 ようし、そうと決まれば、さっそく行動開始だ。
 とりあえず、オリンピック直前まで時間を進めてみよう!
 時間よ、進め!

   *

 進んだ。
 進めすぎた。
 いま、二〇二一年。
 あたし、二十一才。

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