小説

『20番目の女』籐子【「20」にまつわる物語】

 この男達にとって、私は何番目の女なんだろう。
 暗くなったスマホ画面に映る自分と目が合い、私は思わず目を逸らした。

 もう結婚はしない。
 そう決めてから、私は多くの男を引き寄せるようになった。愛のないセックスはしない主義なので肉体関係はほとんどもたないが、何も先を考えず、その時間を目一杯楽しめる女として重宝されているようだ。

 反対に、女は少しずつ離れていった。
 年をとると、“結婚しない女”は、扱いにくい女とされる。結婚する事にも子供を産む事にも自らリミットを設けて、そのリミットによって自らを苦しめている女が多いが、そんな女達は、自分達と違う考え方の女を素直に受け入れる事ができない。いや、受け入れたくないのだ。
 受け入れるという事は、自分が信じてきた絶対的に幸せな女性としての生き方が、単なる選択肢の一つでしかなかったという事を認めざるを得なくなるからだ。狭い世界の中で必死になっている哀れな自分に、一瞬でも気付いてしまうのが怖いのだろう。

 でも、優未は違った。彼女は、出会った時からずっと変わらない。

 優未は結婚して子供を産んでからも働き続け、今では30人の部下を束ねる部長になった。容姿端麗の彼女だが、時に刑事のような鋭い眼光で相手を覗き込む。あの目に睨まれると、男でもひるんでしまう。だからそんな優未が結婚すると聞いた時、一体どんな野獣と結婚するのかと心配したが、まるで正反対のカピバラのような優しい男と結婚した。彼女の強さの裏にある優しさ、かわいさ、そして弱さを素直に出せる相手のようだった。カピバラさんといる時の優未は、とてもかわいい。

 優未と出会ったのは、私がホステスをしていた頃。会社の上司に連れられてきた優未の席に、当時ナンバー1だった私が指名された。美人でハキハキと物を言う優未に、私は好印象を抱いていた。

 一緒にいた優未のハゲ上司は随分失礼な奴だった。ハゲちらかした頭から見える頭皮までうっすらと赤くして、私の腰に腕を回してきた。
「ミエちゃん!やっぱりホステスなんてのはナンバー1じゃなきゃ意味がない。君は確かに美人だが、美人なんて世の中腐るほどいるんだ。僕は君がナンバー1という称号を持ってるから指名したんだよ。“ナンバー1を指名できる男”それが男のステータスってもんだ」

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11