小説

『20番目の女』籐子【「20」にまつわる物語】

 男が単純なら、女はバカだ。

 結婚したから、私が1番目の女。
 2番目でもいいからあなたのそばにいたい。
 私は遊びたいから5番目の女でいいわ、なんて。

 女は男からの順位を常に意識し、その男の反応に対して一喜一憂する。駆け引きをして男を揺るがし、確固たる自分の地位を築いていく。
 女は何故順位にとらわれるのか。

 
 遠くで耳障りな音が鳴っている。私は大きく息を吐いて、ゆっくりと目を開ける。この目覚まし時計の音は、心底人をイライラさせる。機能としては最高だが、この目覚めの不快感はどうにかならないものか。布団から出るのを渋る私の頭を、冷たい空気が撫でまわす。産まれてから42回目の冬だが、朝の寒さには慣れる気がしない。きっと来年も10年後も同じように思いながら、この布団から必死に手を伸ばしてエアコンの電源を押しているのだろう。

 枕もとに無造作に置いた体温計を口に突っ込む。
「あ…またやっちゃった」
 結婚していた頃の癖が今も止められない。もう、妊娠することはないのに。

 氷の様に冷たいフローリングに、おそるおそる足を下ろす。
「つっ…」
 声にならない声が漏れる。いつもなら部屋が暖まってからしか動かないが、今日は優未との約束がある。彼女はバリバリの働きウーマンだから、時間に厳しい。寒さを理由に遅れたりしたら、どれだけ罵倒されることか。私は意を決し立ち上がった。

 床に転がったスマホ画面には“新着メール10件”の表示。
「10件て…」
 これだから既婚者は嫌だ。奥さんや子供が寝静まった後に、愛してるだの会いたいだの、女々しいメールを何通も送ってくる。その言葉に本当の愛なんてない。いけない事をしている自分に酔っているだけだ。筋肉質の色黒男も、ベビーフェイスの優男も、やることは同じ。
 どんな男も、表面の皮を1枚1枚剥ぎ取っていけば、残るものは同じだろう。だとしたら、皮でしかない表面を磨く事に必死になる男は、ただのバカだ。でも、そんなバカな男を相手にして、愛のない言葉と知りながらも満足感を得ている私は、一番の大バカ者だ。

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