小説

『拝啓、20歳の私へ』公乃まつり【「20」にまつわる物語】

 後輩達は信じられない、という表情をしていた。そして呆れていた。誰も何も言わなかった。その空気に耐えられず、場所については後で連絡する、と言って一先ず解散を宣言した。

 時間はお昼を回ろうとしていた。今日、自分の授業がない事が幸いだった。知っているスタジオ全てに電話を入れた。けれども、週末を迎える前日に、20人近い人数が入れる場所はもう全て埋まっていた。

 もう何をすればいいのか分からなかった。本番は明日からの二日間。機材も、場所もなくて、後輩達への求心力も失って。もうだめだ。
 どこから何を間違えたのだろう。ただ、誰かの為になりたかっただけなのに。ただ、誰かの役に立ちたかっただけなのに。

 こんなときは、どうしたらいいのだろう。

 何かにすがりたい、とにかく自分の思考をポジティブにしたい気持ちで、気がつくとスマホであのブログを開こうとしていた。
 何か、ヒントになるような記事はないか、すがるような想いでアクセスする。

『お探しのページは見つかりませんでした』

 手に嫌な汗をかき始める。何度も更新をクリックしても、ページが現れる事はなかった。
 頼りにしていたサイトも無くなって、最後の手綱も切られたような気分だった。
 もう中止するしかないのだろうか。今から連絡すれば、相手がこちらに向かう前だ。会場がありません、という迷惑をかけずに済む。

 中止の連絡をするかどうか、とにかく現状の説明をしなければ、と先生の連絡先を出そうとしたとき、メッセージが入った。
 隣のK大学の子だった。K大学の渉外で、以前に一度、私の鍋パーティに来てくれて、連絡先を交換した覚えがある。鍋やらなんやらを食べた後なのに、特性味噌焼きおにぎりを一番食べていた男の子だ。
『お久しぶりです!何か、ア・カペラの色々をあの大学チャンピオンを輩出したサークルの人から教えてもらうイベントをするって聞いたんだけど、俺、行ってもいい?』
 そして私の既読を見たのか、LINEの電話が鳴った。私もそうだけれど、渉外にいる子は積極的だし、ちょっとせっかちが多い。せっかちだと連絡もマメで、渉外には向いているのだろう。
 彼には悪いけれど、チャンスにはなり得ない。もう潰れかけているイベントだ。中止になる旨を文章にするのは心地よくない。電話で対応できるならそうしてしまった方がいいだろう。

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