小説

『拝啓、20歳の私へ』公乃まつり【「20」にまつわる物語】

 詳しく見ようと、そのツイートをタップしてみると、確かに見たはずの写真や文字が消えていた。
 私が見ることができることに気がついて、消したようだ。いわゆる、ツイ消し。
 せめてあと十秒、早かったら、私はこんな気持ちにならなかったのに。
 いや、そもそも私がツイッターなんて見なければ、知らずにすんだのに。

 
 仲間はずれの原因は何となく分かっていた。
 始まりはサークル長に出した、企画書だと思う。
 企画書そのものに問題はなかった。小さな企画だった。ア・カペラにおけるミキサー、つまりマイクとかそういう音楽機材の使い方講座。今年購入したばかりで、先輩達の中にも詳しく教えてくれる人がいなくて、きちんとした先生に一度教わるのがいいだろう、と渉外担当の私は人脈を辿った。
 そして探してきた先生は、大学ア・カペラ選手権でトップになったグループの専属PA、つまり音響整備をこなしていた人だった。アカペラでは5、6本のマイクを一度に使う。ハウリングしないように調整することはもちろん、各コーラスの音量とか、響きとか、そういうものを調整する音響技術一つで、ライブは全然違うものができる。
 呼んで来た先生は、大学生の中ではトップクラス。しかも大学では教育学部の学生ということもあり、教えるのもとても上手い。申し分ない人選だったと思う。
 ただそれがウケすぎた。思いの他。
 それも同期や先輩ではなく、上昇志向が強い後輩達に。

 大学ア・カペラ界でトップクラスの私達の先生は、他にも色んな先生が紹介できる事を、講習会後の懇親会で漏らした。それは私の同期達よりも、チャレンジングで上手くなる事に貪欲な後輩達に刺さった。
『今のまま、楽しいのが良くて、ゆっくり無理なく上達していこう、部活じゃないんだから』という現状維持派の同期や先輩達そっちのけで、連絡係となっている私に後輩達は押し寄せてきた。これまで、普通の温和で優しくて、ちょっぴり頼りになるお母さんキャラだった私は、一気に革命軍の指揮官に押し上げられた。
 頼まれたら断れない自分の性格と、本当はもっと私も知りたい、という好奇心が後押しして、私は次の企画を作っていた。
 次はハーモニーの作り方も教わりたい、編曲の方法も教わりたい。
 好奇心だけなら良かったのだが、後輩達は何も教えてくれない私の同期や先輩達への愚痴を漏らし始めた。そしてその愚痴は内輪にとどまらず、みんなに聞こえるくらい公なおしゃべりとなって、後輩達と同期・先輩達との溝を深め始めた。サークルは後輩vs私の同期・先輩達という内乱状態だ。
 とばっちりは後輩ではなく私に来た。後輩達は後輩達でなんとなく固まっている。どんな時でも、攻撃するのは一人になっている人がやりやすいからだろう。

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