小説

『拝啓、20歳の私へ』公乃まつり【「20」にまつわる物語】

 年が明けて、サークル自体の幹部も代替わりが近づく。私はイベントの主導権を後輩に引き継いで、自分自身の就活準備に入ろうとしていた。
 住民票を大学がある街に移していたせいか、地元でもないのに成人式の式典案内のハガキが届いていた。
 ふと、成人式、というキーワードからあのブログを思い出す。たまにアクセスするが、『お探しのページは見つかりませんでした』という表示に変わりはなかった。
 同期達からの嫌がらせは続いたままだったし、お互いに気まずいので、代替わりをしたらサークルからは少し距離を置こう。就活と勉強に力を入れていこう。
 そんなことを考えながら、私はW大の人づてに手に入れた、自分が希望する食品関連会社で働く社会人とのメールのやり取りに戻った。

 
 5年も経つと、あの頃は一大事のように思っていた人間関係はすっかり薄くなった。
 私が始めたイベントはどんどん大きくなり、今や講習会にプロを呼んできて最後にはライブも行っているようだ。地方でありながら、プロのライブを身近に聞けるチャンスを作るには、費用も含めて苦労も多かっただろう。

 ふと、趣味のネットサーフィンをしていると、懐かしい、悩める文の羅列が目に入った。そこには、現役の大学生のマンドリンサークルでの悩みが綴られていた。サークルは違えど、瑞々しく、どこか懐かしい気持ちになる文章に感じた。私は小さく微笑んだ。私は今でこそこんなに穏やかでも、今、問題と衝突している当人は必死だ。

 コメントをする為に、自分のアカウントはあるものの、ブログ記事は一度も書いたことはなかった。けれどその日、私は初めてブログ記事作成ボタンをクリックして、思うがまま文字を打ち込み始めた。

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拝啓、20歳の私へ
こんにちは、20歳の私。冬ですが、風邪を引かずに元気にやっていますか?
未来の私は元気に、毎日働いています。20歳の頃よりも、楽観的に、難しい事は考えずに生きていますが、外国に友達が出来たり、プログラミングの勉強をしていたり、今のあなたが専門としている事以外の学習もたくさん積み重ねて、それなりに賢く世の中を生きています。
さて、20歳になる私へ、今の私からメッセージを送りたいと思います。長いと、多分あなたは飽きるでしょうから、本当はたくさん言いたい事はあるけれど、短くして、分けて伝えたいと思います。
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 あの日々の事は、今でも鮮明に描ける。新しい事を考えて、協力して、生み出して。辛かったけれど楽しい日々でもあった。けれども、私は文章をこう締めくくりたい。

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さあ、成人として責任ある大人への一歩だね。
がんばれ、とは言わないよ。
これからを楽しんで!
大人ってめっちゃ楽しいから!
私はそちらに戻りたいとは思わない!

敬具

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