小説

『拝啓、20歳の私へ』公乃まつり【「20」にまつわる物語】

「今晩は、夕方のニュースです。今日は成人式、色とりどりの振り袖やスーツ姿の若者が新たな門出を喜び、大人としての自覚を新たにしました」
 付けっ放しにしていたテレビは、いつの間にか再放送のドラマからニュースに切り替わっていた。ふと時計を見るともう夕方の5時を回っている。
 テレビには艶やかな着物姿の女性が映った。彼女の着物の模様は菊の花だろうか。菊の花の彼女は今日この日の為に準備をしてくれた両親への感謝と自分の夢を力強く語っている。
 画面が切り替わり、梅、桜、そして椿と、様々な柄の着物姿の女性達が真っ直ぐ前を向いて、市長の挨拶を聞いていた。別世界の人のようだった。
 目線を下に落とすと、テーブルの上に置かれた成人式のご案内のハガキが視界に入った。もう今日は終わりだ。ハレの日が終わり、明日からは平日が始まる。
 ハガキをゴミ箱に捨てて、私は再びパソコンに向かい合い、メールボックスを確認した。

 

「最悪」
 とにかくその一言しか出てこなかった。
 自分で言うのも何だが、私は温和な方だ。集団の中に入ると、大抵お母さんポジション。飲み会では節度をもって飲み、潰れた友人の介抱に回る。鍋パーティーの話しが持ち上がれば、大抵の開催は私の部屋で、みんなが来る前に大体の野菜は切り終わっていて、開始時間と同時に食べ始める。好評だった。〆のおじやで足りない人には焼きおにぎり。実家から持ってきていた特性味噌の味は特に男性のリピーターが多かった。
 温和で気が利いて、気さくに会話もできて、冗談だって言えたし、セクハラスレスレの話題にもついていけた。美人じゃないけれど、それなりに人望はあると思っていた。
 それは本当に偶然だった。何気なく、ツイッターを開いて、何気なくタイムラインを追うと、いつものサークルメンバーが楽しげに飲んでいる写真がアップされていた。写真とともに上げられていた文字列に衝撃を覚える。
「同期飲み」
 写真を刺すように見た。私と、幽霊部員を除いて全員いた。私の心をじわじわ蝕む音が聞こえてくるようだった。
 どうして。
 なんで。
 私には、連絡はなかった。

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