小説

『不思議な時間の中の私』春日あかね(『不思議の国のアリス』)

 私のこの一言で、帽子屋も三月うさぎもヤマネも黙ってしまった。

「確かに。時間って奴は、扱いが難しいんだよ」と、帽子屋。続いて、三月うさぎが私の方に体を向きなおし、「わかりますよね、何が言いたいか。
『不思議の国のアリス』読んだことあるんですよね?」私に投げかけた。
 私は内容を思い出そうとした。「つまり、女王様が帽子屋さんの歌を聞いて時間の打つ拍子(タイミング)がズレまくっていると言って、「首をちょん切れ!」って怒ったこと?」
「そう。拍子の時間がわたしの拍子(タイミング)に合わせてくれたら、あのババアだってそんなこと言わなかったかも」と、帽子屋。話はまだ続く。「お願いだからわたしに合わせてくれと言っても、時間の奴、聞いてくれなかった。それどころか、見ての通り、ほら、6時のまんまだよ!」
「そうかぁ。だからお茶の時間のままなのね。片付ける時間もないわけか…、納得。」
「そう。その通り」帽子屋はふぅっとため息をついた。三月うさぎも下を向いたままだった。ヤマネはスウスウと息を漏らしながら寝ている。

 乱暴なものの言い方の帽子屋ではあるけれど、私には、だんだんと帽子屋の気持ちがわかりかけてきた。

と、思った矢先、三月うさぎが口を挟んだ。

「お茶をもう1杯いかが?」

「あ〜、せっかく帽子屋さんのことがわかりかけてきたところなのにぃ…。それに、まだ何も飲ませてもらってないのに、もう1杯なんて飲めないわ」すかさず私は突っ込みを入れた。

 今度は帽子屋が、

「「1杯」じゃなくて、「0杯」と言わなくちゃ。「0杯なんて飲めない」と言うなら話はわかる」と得意そうに言った。

 さらに、

「つまり、1杯だろうが、2杯だろうが、3杯だろうが、常識で考えても、1杯以上(1≦ )なら誰だって飲めるんだ。ゼロ(=0)は、ないんだから、飲むことなんてできない。そう言わなくちゃ、わかる?」と、持論を連ね、ますます話をややこしくした。

「もーう!あんたになんか言ってないわよ。だいたい、私、数学なんて苦手なんだから!だから、数字なんか話題にしないでよ!」私は発狂した。

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