小説

『不思議な時間の中の私』春日あかね(『不思議の国のアリス』)

 これから話すことは、信じられないかもしれないけれど、昨年末、私の身に起こった話。まだ誰にも話していないから、このことを知っている者はいない。あなたがこれを読んで信じるか、信じないかは別として、とにかく、最後まで読んでほしい。

 なんだか年々、時が経つのが早くなっている気がする。特に、携帯やスマホが登場してからはそう感じてしまう。恐らく、いつでもどこでも連絡が取れるから、待っていなくても良くなったからだろう。スマホがあれば、バスを待つ間だって、退屈しない。

 でも、逆に言うと、時間に追われることが多くなった気がする。便利になって効率的に物が運ぶのとは裏腹に、いつも時間が気になってばかりいる自分がいる。

「まるで、『不思議の国のアリス』の世界だわ」、うさぎが時間に追われ、走っているシーンが頭に浮かんだ。

 私は 『不思議の国のアリス』を 読み返してみようと思った。お正月休みに入るし、会社から勤続5周年で表彰され、特別休暇が与えられた。それを利用すれば、10連休にもなる。でも、これといって特に予定を入れることはなかった。会社の業務に追われ、アレヨアレヨと言う間に今日を迎えたから。 せっかくのチャンスだから実家でゆっくりと『不思議の国のアリス』を読んで、時空間について考えてみよう、なんて思ったのだ。

 私の実家には、大きな本棚がある。その本棚の奥にあった!『不思議の国のアリス』。私の5歳の誕生日に両親が買ってくれたものだった。ただの絵本ではない、「飛び出す絵本」だ。本を開くと、ビヨ〜ンとキャラクターが飛び出してくる。内容を読むというより、絵が飛び出してくることにもっと喜びを感じ、何度も開いては閉じ、開いては閉じ、飛び出す絵本を楽しんだ記憶がある。

【12月31日 午後11時00分】
 数十年ぶりに開く『不思議の国のアリス』。なんだかドキドキした。時空を超えて、当時へタイムスリップするかのように。

 すると、周りの風景がどんどん大きくなり、目の前には巨大な絵本が!あれ〜っ!有無も言わせず、私は不思議な国の世界へと引き込まれてしまったのである!

 たどり着いた先は、森の中の一軒家。わりと小さい家だが、立派な庭があり、その中には大きな木がそびえ立っている。昔、テレビの子供番組で見た「おもちゃの木」に似ている。木には大きな時計が掛けられている。ちょうど6時を指している。 中央には、大きなテーブルが置かれている。そこには、『不思議な国のアリス』に登場する三月うさぎと帽子屋、ヤマネが窮屈そうに肩を寄せ合って座っている。私は、彼らの間に割り込んだ。

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