小説

『ミス鼻子』中村一子(芥川龍之介『鼻』)

 園児たちの反応はと言えば、「鼻子先生は魔法使いだ」と恐ろしがられた。

 鼻子はやっぱりあれはブタの呪いだったのだと思い、ブタの貯金箱を買ってきて、毎朝それを拝んでから出勤した。せめてもの罪滅ぼしのつもりで。
 人はまともな鼻になった鼻子によかったねと言うが、そこに複雑なものが見え隠れする。同情は自分の優越感をくすぐる。自分が綺麗になったことを本気で喜んでくれているのは両親ぐらいなものだ。と鼻子は思った。いや、もう1人いた。
 鼻子の治療をしたあの若い医師だ。彼は鼻子の難病の鼻を治したことで、若くして学会で一目置かれる存在になった。そして、彼女にプロポーズをしてきた。
「その後の私の鼻を、研究対象にしたいんでしょ?」
 鼻子が冗談交じりに言うと
「分かった?」
 彼は悪びれずに笑った。
 鼻子はこの人なら、いつかまた自分の中の傲慢さが顔を出しても、止めてくれそうな気がした。

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