小説

『Golden Egg』室市雅則(『金の斧』)

男は自分の浅はかさに泣きながら笑ってしまった。
もう逝こう。
腰にぶら下げていた枝払い用の手斧を取った。
足元の二つの卵を思い出した。
――こんな物。
手斧を銀の卵に叩きつけた。
男の手が痺れた。卵は正真正銘の銀で出来ていたため、鉄では到底敵うはずが無かったが、小さなひびだけが入った。
そこから水が溢れ出し、あれよあれよの間に殻が真っ二つに割れた。
そこには大量の銀貨が現れた。
しかし、男は冷めていた。
――くだらない。それならば金のこちらは金貨か?これがあった所で、俺が生きる理由にはならない。
男は金の卵を割ってやろうと手斧を大きく振り上げた。
それに呼応するかのように金の卵が燦然と輝き出した。
あまりの眩しさに振り上げた手を下ろし、手の隙間から卵を確認した。
すぐにそれさえも出来ぬほどの輝きを放ち始め、光量が一気に増し、男は目を閉じた。
全てが白に包まれた。
ゆっくりと目を開ける。
まだ視界はぼやけている。
足元から「ふにゃふにゃ」という音が聞こえてきた。
そちらに目をやる。
徐々に視界がクリアになり、足元で金の卵が真っ二つに割れているのが分かった。そして、その殻の間に赤ん坊がいるのが分かった。
――ここから生まれたのか?
赤ん坊がいきなり泣き出し、真っ赤になった。
――どうすれば良い。
辺りを見渡すも動物の影さえない。
「女神様!」
思わず叫んだ。
水面はうんともすんとも言わない。
これまで赤ん坊との接点が無かった男は恐る恐る手を伸ばし、赤ん坊を抱きあげた。
まだ泣いている。

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