小説

『悪いおじいさんのおばあさん』高橋己詩(『おむすびころりん』)

「黄泉の国とどう違うのよ」
「違うといえば違います。ですが同じといえば同じです。解釈次第です」
「根の国っていうだけあって、地下にあるのね」
「地下といえば地下です。ですが地上といえば地上です。解釈次第です。いずれにせよ、地続きにはなっているんです」
 このエリアには無数の棚が並べられており、そのどれもにぎっしりと本が詰まっていました。棚はその本のジャンル毎に配置されており、近く壁にはそれを記したマッピング図が掲示されていました。
 それだけではありません。少し離れたところには、本の棚ではなく、DVDやVHSの棚もあるようです。
「あの、ここは何なのかしら」
「根の国ですよ」
「なるほど。根に住んでいるから根住みなのね」
「大正解」
「本とかビデオとか、たくさんあるのね」
「そうです。ですが地上に出回るのは、これらのうちのごく一部です」
「それ以外はどうなるの」
「消えていきます」
「こっちとあっちの違いは何かしら」
「そっちは」鼠は書棚を指差しました。「小説や随筆です。完全主観的なので、登場人物や作者本人の考えが直接的に表現されます」
 今度は別のほうを指差しました。
「こっちは映画、ですね。音や映像を用いて表現をすることができますので、作り手と受け手で共通認識を持ちやすいです。客観主観的な分、視覚や聴覚の情報は特定的になってしまうものです」
「あら、そう」
「そうです」
「どっちが優れているのかしら」
「どっちというわけでもありません。どちらにも優位な点はありますから。物を語る上で適した媒体が選択されればいいのです」
 ほらここですよ、と鼠坊主は立ち止まりました。たどり着いたのは、とても広い、宴会場でした。そこではすでに、大勢の鼠が待機していました。彼らがきっと、ダンス鼠坊主なのでしょう。
「それでは、宴を見ていってください」

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