小説

『赤穂浪士にお邪魔 二十人の愉快な仲間達』洗い熊Q【「20」にまつわる物語】(『赤穂浪士』『ぶんぶく茶釜』『笠地蔵』)

 歓声に顔が綻びることなく目もくれず、浪士一行は泉岳寺へと入って行くのでありました。

 

「……ゴンちゃん。もう大丈夫だって。出てきて良いよ」
 槍先に掲げていた白風呂敷を地面へと下ろし、広げられます。
 中から出たは丸まった状態のゴン狐。
 布を頭にほっかぶりをしていて、両鼻に割り箸を差し込んでいます。
「……あいたた……割り箸が鼻奥に刺さっちまったよ……それよりここか?! ドジョウ掬い会場はここか!?」
 手に持った笊を、構えながら周囲をクルクル見回すゴン狐。宥める様にぶんぶくが肩を叩きます。
「うん。やんなくて大丈夫なんだよ。まさか布の中で仕込んでいたとは、私も予想してなかった」
「なんだよ! 俺は何時になったらドジョウ掬いが出来るんだよ!?」
 ゴン狐、笊を地面に叩きつけています。
 何とか様になった主君の墓までの凱旋。しかし、何もかもが半端でいい加減な討ち入り。すっかり疲労困憊の忠左衛門を含めた赤穂浪士達。
 ぐったり、というよりげんなりです。
 意気消沈の忠左衛門達にぶんぶくが言います。
「で、この後はアレでしょ? ハラキリでしょ? ジャパニーズでしょ? 私達はやんなくていいんだよね」
「え……いや、直ぐに切腹とはならないんですが……」
「じゃあ、私達はこれで失礼ね。ハラキリやるんだったら、お地蔵さん達に残ってもらうね。見届け人っていうの? 念仏唱えぱなしだから丁度良いでしょう~」
「えっ!? こ、困りますっていうか、わざわざそんな事しなくても……」
「まあまあ。何か聞いてた話とちょい違っていたかもだけど、偶にはこんなんでもいいじゃない? 新たな挑戦? まあ、それに向けた息抜きみたいな回って感じ? これはこれで良しって思えば、何でも極楽よ~」
「は、はぁ……」
「と言う事で、私達はバイバイね……ゴンちゃん、家で忘年会やろっか? 岩牡蠣を大量にネットで注文したらからさ。牡蠣食い大会をやろうよ、ね?」
「お、いいね~。ジョッキ飲みか~? 牡蠣のジョッキ飲みやるか~?」
 笑い合いながらぶんぶく達は去って行きます。それをただ茫然と見送ることしかできない忠左衛門。
 ふっと後ろを見れば、じっとお地蔵様達がこちらを見ています。
「えっと……」
 困る忠左衛門に、地蔵菩薩立像様がまた和紙を掲げ見せます。
 ”やるの?”の一言。
「え……いや……何か中途半端な討ち入りでしたし……このまま潔くってのも……」
 また地蔵様が別の和紙を掲げます。

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