小説

『いくじなし』中杉誠志【「20」にまつわる物語】

 おれは何にしても飽きっぽくて、長く続いた試しがない。
「あんたはいくじなしだねえ」
 なんて、お袋はよくいったもんだ。
 そのお袋の子供でいることすら、長続きはしなかった。
 十七才のときに高校を辞めて、クソ田舎の家を飛び出し、東京に出てきた。あてもなく夜の街をさすらってたら、ソープのポン引きに話しかけられた。
「どう、お兄さん、本番あり」
「いや、金ないんす。全然ないんす。今日こっち来たばっかりで」
 なんてなことをいろいろ話してるうちに、そこで雇ってもらえることになった。昔は、いまとは違っていろいろ緩かったんだ。オーナー名義で借りてるっていう安アパートに押し込められて、三年働いた。
 おれはその店でいろんなことを知った。学校じゃ教えてくれないし、社会に出てからも知らないやつは一生知らないようなことだ。悪い遊びってやつも覚えた。店の女の子に手を出したのがバレて店のオーナーからボコボコにされたあげく罰金とられた上に丸坊主にされたこともあるが、それはそれでいい思い出だ。
 おれは二十歳になると同時に店を辞めて、一人暮らしを始めた。べつの街に移って、保証人のいらないアパートを借りた。相変わらず夜の仕事で、ポン引きだったり、バーの店長だったりといろいろやったが、あるとき繁華街で酔って引っかけた女と付き合い始め、半年後に結婚した。声をかけたときはいい女に見えたし、ホテルで朝起きてからもいい女に見えた。当分いい女に見えたからプロポーズしたんだ。稼ぎのある女で、それも昼間の仕事だったから、おれには釣り合わないくらいのいい女だった。そんないい女が、「働かなくていいから家にいて」っていった。おれも、好きでポン引きやバーの店長やってたわけじゃなかったから、その話に乗って仕事をやめた。
 すぐに子供ができた。男が専業で育児なんて話はめったにないような時代の話だ。おれに子育てなんてできるのかと思ったが、意外と向いていた。昔から、動物の世話も好きだったし、いろいろ夜の仕事やってきたおかげで料理も洗濯も掃除もできる。
 でも、嫁さんはそれが気に食わなかったらしい。おれにはダメ男でいてくれなきゃ困るみたいだった。たぶん、他人に対して優越感を抱きながら生きるのが生きがいだったんだろう。おれみたいなろくでなしは、見事にその役に立ってた。そんなろくでなしが、子供の世話に関しては自分以上にできてしまえるとなったら、生きがいが破綻する。若くしてそのへんの男より稼ぐような女だから、人一倍プライドは高かったんだろう。

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