小説

『永遠に』ウダ・タマキ【「20」にまつわる物語】

 夜が朝に移ろいゆく曖昧な青白い色の空が好きで、毎朝、早起きしては夢遊病の如く歩き回る。これが、私にとって至福の時間。
 帰宅する頃には、空はすっかり青さを帯び、庭に集う雀たちの鳴き声が新たな1日の訪れを告げる。私は縁側に座りながらパンの耳をちぎっては、雀たちに分け与える。そして胸を踊らせ考える。今日はどんな素敵な出来事が待っているのだろうかと。

 しかし、最近の私にとって新たな1日の始まりは、まるで暗黒の世界に足を踏み入れるかのように、暗澹とした気分にさせることがある。理由は分からない。何故か心の奥底、とても深いところがそう感じさせる。たとえ、どれだけ爽やかで清々しく、まるで春の息吹を感じるような陽光が柔らかな日でさえも、私には何の希望も抱かせない。今日もまた、いつもの1日が始まるのだと、嘆き苦しむに過ぎない。

 彼らは毎朝7時に冷めた朝食を運んでくる。仮面をつけた女性、福笑いのような不揃いな笑顔の男性、気怠そうな覇気の無い女性。どれもその身はここにあれど、心を宿していない。食事途中ならば、早く食べろと煽りたて、後で食べようと残しておけばお膳が下げられる。
 私は雀のように自由に空を舞い、疲れたならば羽を休め、腹が減れば好きなものを食べる。そんな風な日々を送りたいのだ。

「スミレさん、体操に行きましょうか」と誘いに来た初めて会う青年が、あまりに澄んだ瞳と温かな笑顔でそう言うので、ついその言葉に乗せられて私にはこれまで無縁だった体操なんてものに参加した。
 腕を挙げたり回したり、錆び付いた歯車の如くギシギシと肩が悲鳴をあげる。「大丈夫ですか、無理なさらずに」という青年の言葉に私の心が揺らぐ。
 つい、「晩ご飯でも一緒にどうですか」と誘ってみるのだが、「今日は早番なんでまた今度ですね」と、愛想の良い声色と表情でさらりと断るのだった。簡単には落とせそうにない。
 一人、窓辺の椅子に腰かけて外の景色を眺める。灰色の空からは水滴が零れ落ち、やがて大粒の雨となった。
「大変!」と、思い出したのはベランダに干した洗濯物のこと。咄嗟に「すみません!」と手を挙げると、先ほどの青年が駆け付けて「どうしました?」と優しく尋ねてくれる。私は洗濯物のことを伝えると「大丈夫です、僕が取り込んできます」と、胸に手を当てる仕草が私に大きな安心を与えてくれるので、「ありがとうございます」と、お任せして、今度はベッドで待つ猫のミーのことが気になり様子を見に戻った。

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