小説

『千羽鶴』洗い熊Q(『鶴の恩返し』)

「お二人とも、そんなに参加されるんですか?」
 グループ仲間の一人、若い女性が驚きながら僕達に訊いてきていた。
「ええ、まあ」
「宿泊とかどうするんですか? そんなに滞在するんじゃ、費用も掛かるでしょうに……」
「僕は母方の実家が近いんです。車で二十分位ですかね。そっちは被害がなかったので……そこで泊めさせて貰ってます」
「へぇ、そうなのか~」と奥村さんが言った。
「オッちゃんは?」と僕が聞き返した。
「キャンピングカー。バッチリだ」
「流石だね」
 僕の答えに奥村さんは親指を立てて答えてくれていた。

 

 僕と奥村さんとの出逢いは、ここが初めてではない。
 以前に逢ったのは東北でのボランティア活動だ。
 人生セミリタイアしたから、後の残りは人助けに。そう言ったのが印象的だった。それが出来る程、稼いでいた凄い人なんだとも思った。
 僕が初参加の時にグループが一緒になり。二日目以降に、何度か一緒になるという偶然から親しくなり、連絡先も交換していた。
 今回の大規模な土砂災害が発生して、連絡が来た。今回は参加するのかい? と。
 勿論と返した。先程も言ったが、母の実家が近かったのも参加の理由の訳だが。

 

「今日は避難所への支援物資の荷下ろしを手伝う事になりました~。女性の方は荷物の仕分けと配布の作業と。男性は力仕事全般になるかな。オリエンテーション後に皆一緒に向かうからね。案内するから。俺の親指が目印」
 奥村さんが受付から帰ってきて、笑顔で親指を立てながら言っていた。どんな状況でも神妙な顔を見せないのが不謹慎に思いつつ、それが僅かな気休めになっている。
 オッちゃんらしい。そう感じるんだ。
 僕達のグループは避難所となっている公民館まで歩いて向かった。

 
 土砂災害が起きてから日数は経っているが、二次災害の危険性がなくなってからボランティアの受け入れがようやくと始まっていた。

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