小説

『千羽鶴』洗い熊Q(『鶴の恩返し』)

「皆さん、おはよう御座います。今日一日、このグループのリーダーを務めます、奥村です。よろしくお願いします~」
 五十半ばの男性の挨拶。粛々とした雰囲気となると思いきや、グループの中からクスクスと笑い声が聞こえてきていた。
「改まった挨拶なんて、オッちゃんには似合わないな。今更って感じ」
 グループの中の若めの男性が言っていた。
「なんだよ、お前ら。一応、今日初めてって人も居るんだから。そりゃあ形式っていうか、礼儀ってもんがあろうが。なぁ? お姉さんは初めてだろ?」
「ええ、まあ」
 そう、奥村さんに言われて、中年の女性は困惑気味の苦笑を浮かべながら答えていた。
「取り敢えず、まあ、なんだ。軽く自己紹介をしたら、受付に行ってマッチングしてくるから。そうだな、まあ、今日もポスティング活動になりそうだけど。初めて人はしっかりとオリエンテーションでの説明をちゃんと聞いといてね。じゃあ、まあ、端から挨拶」
 相変わらずだな、オッちゃんは。僕はそう思った。
 奥村さんは陽気にしようとしている訳ではない。存在自体が愉快なんだ。微妙な喋り方。気さくな見た目。
 災害現場という重苦しい雰囲気に浸かりそうな中で、ふざけた存在と思えない、一種の清涼剤のような安堵をくれる人。前向きな思考や発言が、そう思わせてくれるんだろう。
「佐伯君は今日で何日目なの? まだ暫くいるんかい?」と奥村さんが僕に訊いてきていた。
「まだ二日目です。取り敢えず明日までで……また来週には来ます」
「来週は何日予定?」
「一週間は居られます。公休と有休をつかって……」
「そうか、そうか。相変わらず若いのに偉いな」
「オッちゃんはいつまで参加するの?」
「二週間、バッチリだ」
 奥村さんは笑って言っていた。

 
 オッちゃん。奥村さんはそう呼んでくれと初めて出会った時に言っていた。
 オッサンと同様に呼び捨ての様に受け取れるが、奥村の”お”から取ってのオッちゃんだ。
 自己紹介の時にそれを言って、重々しい雰囲気だったその場の空気が、クスクスと漏れ笑いと共に和んでいったのをよく覚えている。

 

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