小説

『祝祭の日』藤野【「20」にまつわる物語】

「サーシャがつかないとピザが焼けないっていうから、迎えに来たよ」
「ありがとう。カトリーナ怒ってた?」
「怒ってた怒ってた。気を紛らわせるために、ダンスから始めることにしたらしいよ」
 ハビエルが綺麗な黒い瞳をいたずらげに動かして頂上を見ると、風に乗った音楽がちょうど聞こえてきた。涼やかな風が髪を揺らし、音楽とともに人々の間をするすると流れていく。歓声を上げて子供達が頂上に向かって一斉に駆け出していく。大人たちも息が切れかけていたことを忘れたように、自然と歩く速さが上がる。
「始まっちゃう。早く行かないと」
「ほら、おいで」
 ハビエルがサーシャの手をつかんで走り出す。まるで子供のように勢いよく走り出した2人をみんな微笑ましく見ながら、先を譲ってくれる。ぐんぐんと駆け上がりながら、空へとどんどん近づいていく。
 祭りの始まりだ。

 祭りは夜明けまで続く。たくさんのご馳走を食べ、踊り疲れた後はパチパチと爆ぜる日を囲みながら、大人たちが遠い思い出を語り合う。遠い先祖たちの話も交えて懐かしい思い出を語りあいながら日の出を待つのが恒例となっている。眠ってしまった小さな子供たちは、寒くないように毛布に包まれて夢の中で祭りを楽しんでいるかのようにときおり微笑んでいる。今年初めて夜明かしを行うと決めた子供達は、眠い目をこすりながら、話に参加しようと頑張っている。
 サーシャはハビエルとカトリーナと一緒に、東の空がよく見えるように教会の入り口に腰を下ろしていた。しんとした夜の空が広がっており、じっと上を向いているとこの村ごと空を飛んでいるような気分になる。
「みんな、毎年毎年よく話が尽きないわよね」
 カトリーナが呆れたようにつぶやく。
「まぁ、生まれた時からの思い出がたっぷり詰まってるんだろうからね」
 ハビエルがホットワインを2人に配りながら、カトリーナをなだめる。サーシャも含めて同い年の3人だが、今年になってすっかりハビエルは大人の風情を漂わせている。ほんの少し前までは3人もこの広場を駆け回って祭りを過ごし、夜になると疲れて眠り込んでしまっていたように感じていたのに、ただ走り回っているだけではいられなくなっていく。何も変わっていないように見えても、着実に時間が流れていることを毎年この祭りの時に実感する。
「そりゃそうよ。毎年毎年飽きるくらいの思い出を聞いてるんだから誰かの一生分くらいの思い出は語れるわよ。まだ20歳なのに」

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