小説

『アケガタ・ユウガタ』もりまりこ【「20」にまつわる物語】

 遊びだけど、ドリルやってる感じにするんだよ。ユウガタ、お前さほんとうは売れたいだろう?
 売れたいだろう? って問われたけれど、そんなことアケガタはとっくに諦めていることに気づいて、曖昧に返事をした。

 アケガタは<いつ>と<だれが>と<どした>の担当で。
 ユウガタは<どこで>と<なにを>を引き受けた。

 ユウガタは小学校の国語の授業でそんな遊びをしたような気がして、記憶をたどる。
 紙を広げたときにひとつひとつの言葉をつなげて文のようになっている、それを見て、ありえない偶然にみんなで笑ったことをぼんやり思い出す。
 子供の笑いたいものなんてだいたい決まっているから、みんな受け狙いばかり書きなぐっていた。
 そんな他愛のない遊びのはじまりが<たえなるしかばね>と名付けられていることをさっき知って。少しだけおそろしい気持ちに駆られながら、あぁ<たえなるしかばね>も4文字じゃんって思ったとき少し鳥肌がたった。
 あの頃小学生だったこどもたちの無邪気さのなかには、誰も気づかないぐらい微量に、こういう邪悪ななにかが、潜んでいたのかもしれないなって思ってみる。

 いちばんはじめのふたりのスロウ・グラスゲームはこんなだった。
 ぜんぶでそろったところで、白い紙をおもむろに開く。
 いつ。<放課後>。どこで<プールで>。だれが<ちちはは>。
 なにを<かげろう>。
 どした係のアケガタは<いじめた>と書いていた。
<放課後のプールでちちははがかげろうをいじめた>
 白い紙をおそるおそる、開きながら<ちちはは>が<かげろう>を<いじめた>だって。って言ってふたりの間にみじかい凪が訪れた。
 これ以上沈黙が続くと意味ができそうになったせつな、ことばってってアケガタがひとこと声を放った。
 なんかこえーな。って続けた。
 ユウガタはだたの言葉だろうって思ってたけど。
 深層心理がどうのこうのって話をアケガタが話し始めると、ユウガタはこども時代に義理の父親にいやというほど殴られていたことを封印していたことを思い出して。時差でもってことばはほんとこわいなってアケガタの言葉をリフレインしているような気持ちになった。

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