小説

『チヨコ 初号機』洗い熊Q(『魔法使いの弟子』)

 訳も分からず万歳するな。人目が無くて良かったと思う光景だ。
「おめでとう御座います! このラッキーカードを引いた貴方! 貴方の願いを何でも一つだけ叶えましょう!」
「は? はぁ……」
「ただし物質的な願いは勘弁です。車が欲しいとか、ダイヤが欲しいとか、金が欲しいとか……あと王様になりたいとか、金持ちになりたいとか系も外して頂いて……あと仕事が成功するとか、宝くじが当たるとかの運任せの願いもご勘弁……と言う訳で、いま貴方がこう、ふわっとそうだったらいいなって願いを言って下さい!」
 何か願い絞られて最後は曖昧になってるぞ。とにかく金銭面は避けろと。まあ今、俺の願望をちょっと口に出してみろって演出なんだろう、占いをする為の。
 そう考えると何か突飛な事でも言って、この占い師を困らせてやろうか。
 最初は占い代をタダにしろと思ったが、俺はふっと思いついた事を言った。
「そうだな……恋人が増えて欲しいかな」
「恋人が増える?」
「えっ!? シンちゃん、新しい恋人が欲しいって言うの!? チーじゃ不満なの! どこが!? 色々断ったのダメだった!? 裸でエプロンとか!?」
「誰もそんなの頼んでねぇ! ……そういう意味じゃなくてさ。チヨコが増えて欲しいって言ってるんだよ」
「チーが??」
「お前、俺の仕事を何時も手伝ってくれてるだろ? お前が増えていったらともて助かるなと。信頼出来るんだよ、お前だと」
 これは本心だ。委託業務と副業を自宅でしている俺をチヨコは献身的に手伝ってくれる。仕事ぶりも優秀だ。他人を雇うより信頼がある。業務が安定したら正直、給料を出さねばと常々思っていた位だ。
 ――この時だった。俺は言葉の表現を言い間違えたのは。
「シンちゃん……そんなにチーの事を信頼してくれてるんだ。嬉しい……やっぱチーとシンちゃんは首に赤い縄が結ばれている運命なんだね」
 いやそれだと死なば諸共と聞こえるぞ、やめてくれ。
「分かりました! その彼女が増えてゆく願い叶えましょう!」
「へ?」
「明日から順次増えて……あっ、ちょとお待ちを携帯が……もしもし? え? お客からアフターの依頼? 行く行く直ぐ行く! ちょっと待って貰って……ああ、今日の占いはこれで終了って事で。でわ~」

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