小説

『トイレの平田さん』山名美穂(『祇園精舎』)

 でも、トイレの平田さんは失脚したわけでも、滅びたわけでもなく、元気にカムバックした。彼の繁栄のピークが、小学校のトイレ掃除係でなくてよかったと思う。ピークなんてあるのかな。人はいつか死ぬけども、平田さんはずっと平田さんであるような気がする。トイレとともにあろうと、離れていようと。
「あっ」
 ちょっとおしっこが飛びすぎて、便器から外れた。僕は個室からトイレットペーパーを持ってきて、飛び散ったそれを拭く。僕の粗相でトイレの平田さんに迷惑が掛からないように。
 僕は満足して、丸まったトイレットペーパーを大便器に流した。

 その後給食で、愛しの本田マリの分まで牛乳を一気飲みし、腹を下してトイレに立てこもった加藤の有様、心も詞も及ばれね。

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