小説

『二十年後、変わらないもの』ウダ・タマキ【「20」にまつわる物語】

 子供同士が仲良くなるのに、時間は掛からないもので、歩きながら話をしているうち、少しずつ心が通い合う気がした。
「東京って、夜中でも店が開いてるん?」
「開いてるよ。人もたくさん歩いてるよ」
「へぇー、すごいなぁ。こことは全く違うな。あ、夜は星が見えへんのやんな?」
「うん、星なんか全然見えないよ。空が明るすぎるからさ」
「ここは星が綺麗やで。冬なんかもっとすごいんやから」
「あ、そう言えば、東京って……」
 会話の殆どが、僕が質問する東京の話題だった。
 初めて出会った東京の友達に、僕は興奮していたのだ。
 森に入ってはクワガタを捕まえたり、木登りをしたり、川では石投げをして遊んだ。田舎の遊びに慣れていない康太に、僕はまるでお兄ちゃんになった気分で教えてあげた。
「これ、ミヤマクワガタっていうんやで。あまり採れへんやつやからラッキーやわ」
「へぇ、そうなんだ!楽しいね、こうゆうの!」
 康太は、満面の笑みを浮かべた。
 それから、僕達は時間が経つのも忘れて遊んだ。もっと遊びたかったが、空が暗くなり始めたので帰ることにすると、家に着く頃には七時を回っていて母さんにこっ酷く怒られた。
「何時やと思ってんのよ!もう少し早く帰りなさい!」
「ごめん、ねえ、明日も康太と遊びに行っていい?」
「いいけど、明日は早く帰ってきなさいよ!」
「はぁい」
 僕は、明日が待ち遠しくて仕方なかった。

 次の日、僕達は村で唯一の駄菓子屋へ向かった。
 坪井商店という薄汚れた看板が掛かっていたが、村の子供達は、皆んな『挑戦屋』と呼んでいた。
 呼び名は代々受け継がれたもので、何故、そう呼ぶのか理由は分からない。  
なにしろ、父さんが子供の頃にもそう呼んでいたそうだ。その時、店にいたおばあちゃんが、僕が通っていた時にも九十歳を過ぎて尚、店に立っていた。
「いい?よく見ててよ」
 僕は小さな声で康太に言うと、周囲に誰もいないことを確認した。

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