小説

『つみのかけら』もりまりこ【「20」にまつわる物語】

 あの人って耳子が思う時、すこしだけ耳子のなかに罪悪感が芽生える。
 そして最後の彼の声を思い出す。
「今日の星はいくつ出てる?」
 彼がとぎれとぎれの声をふりしぼって耳子に聞いた。
「・・・じゅうなな じゅうはち じゅうく にじゅう」
「ふーん、そうなんだ」
 耳子はつい2年前のことを思い出して、ひとり<サッドストーン>に打ち明けた。さいごまでその石に打ち明けられなかったふたりの罪ともうひとつ。あの日の最後の夜。窓の外を見上げて、星がひとつもでていなかったことも、添えて、石につげた。

 手のひらのなかの<サッドストーン>はゆるやかにあたたまってゆくのが解った。さいごまでたどりつけるか不安だったけれど、話し終えて、耳子は立ち上がる。キッチンでポットの中のコーヒーをマグカップに注いでいた。そのとき耳子のうしろのほうで、なにかが弾け落ちる音がした。ふりむくと卵型の<サッドストーン>が、ばらばらにリノリウムの床に砕け散っていた。
 それはまるで罪のかけらのようにぎざぎざで。
 耳子は拾い上げる。かけらをなにげなく数えた19個だった。あの日の星と同じだったらよかったのにと思いながら。さいごのひとつ。つまみあげようとしたときに耳子は欠片にふれてけがをした。うっすら血が滲んでゆくのを、しずかにみていた。

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