小説

『つみのかけら』もりまりこ【「20」にまつわる物語】

 それを聞いてしまったらそれがそいういうことなのか、なんだか気になってしかたなくなるかもしれないっていちまつのそわそわを感じて落ち着かなくなるはずなのに。

 耳子は、ひとのなやみをきく仕事をしていた。

 そりゃ耳子だって経験はある。なんでも打ち明けたほうがいいよって言われて、うっかり打ち明けてしまってこともあるけれど。あぁ、奥の奥のほうにしまってあったものがどこからだあふれだしてしまって、それはもう逝ってしまったんだなっていう気持ちにはげしく駆られたことがあった。
 ぜんぶもっていかれたような感じ。
 その後味のはかなさを味わってから、耳子は聞くひとになった。

 ある日、女の人が訪ねてきて言った。
「夫は身体の自由を奪われているから、意識もふたしかな夫にずっと抱いていた秘密をうちあけてみたの」
 太い小指になぜかピンキーリングだけをした、グレーのスーツを着た初老のおばさまだった。「耳元で私が、ざんげしてしているとねあの人、指のあちこちをぴくって動かすの。ほんとうはね、ちゃんと聞いてるかもしれないって思うようになったの。それでもね、打ち明ける時のあの開放感ったらなかったのよ」

 じぶんの身体の器のなかを、ひみつや罪でひたひたにすることは、限界があるものなんだろう。抱えきれないなにかをぽろぽろっとこぼしてしまった時、正直そこにはたしかな体積をたずさえていたのかもしれないって思うぐらい、そのものじたいの容積が若干軽くなったような気がするから。

 告げるっていう行為はなにか想いを放つと、それが空気に触れたせつな多少なりの重さが瞬間的に受け止めてくれるだれかのもとに移動してしまうものなのかもしれないなって思う。
 その重さを引き受ける役割を耳子は担っていることになるのだけれど。

 もういまはいない父親みたいな人に<かなしみの石>という石が異国のどこかにはあるんだよって教えてもらったことがあった。その石におかした罪を告白して、その石が砕け散った時、そのひとはその罪から救われるんだとか。

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