小説

『明暗絵巻』和織(『闇の絵巻』)

 私がそう言うと、男が少し、笑ったような気がした。それから数分歩くと、彼はそろそろ引き返して家に帰ると言った。途中まで一緒に行こうかと申し出ると、私のことが心配なので大丈夫だと断られた。これには私も笑ってしまった。この暗闇の中に笑い声を落とすなんて、考えたことすらなかった。
 私は男の杖の音が遠ざかるのに耳を澄ましながら、療養所の小さな明かりへ向かって、再び一人で深い闇を歩き出した。

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