小説

『鬼の目にも涙』本多真(『桃太郎』)

 むかしむかし、あるところに、鬼が島という島があって、そこには恐い鬼がたくさんおりました。
 鬼は恐くて強いのです。中でも一番強く、一番偉い鬼がおりました。
 その鬼の名は『大鬼』。
 最も大きくて恐くて強いと皆に恐れられていますが、本当は、誰よりも心優しい鬼だということは、ずっと秘密だったのです。

 ある日。
 大鬼が川で洗濯をしていると、どんぶらこっこ~どんぶらこっこ~と、川から大きな桃が流れてきました。
「おおー! 大きな桃だべ!」
 桃を見て驚いた大鬼は、川へと入っていきます。
 すぐに桃を掴むと、大鬼は桃を抱えて川を出ました。
「大きくて美味しそうな桃だべ」
 まんまるく、綺麗な色の桃に、大鬼はよだれを垂らしてしまいます。
 早く食べようと、大鬼は途中の洗濯をほったらかして家に帰りました。
「さーて、食べるべか。あっ皆の分も取っておくべ」
 大鬼は切り分けようとします。
 大鬼の目の前で、突然桃が黄金に輝いたのです。
「うわ!? なんだべ!」
 あまりの眩しさに目を閉じる大鬼。
 すると、桃がぱかっとひとりでに割れてしまいました。
 でも驚くにはまだ早いです。
 なんと割れた桃から――
「んぎゃああ、んぎゃあああ!」
 大声で泣く、あかんぼうが出てきたのです。
 それも、なんと『人間』のあかちゃんだったのです。
「こら~たまげた。桃からあかんぼが出てきよった。それも美味そうな、いや人間のあかんぼでねーか」
 困惑しながらも大鬼は、あかんぼうを抱き上げます。
 するとなんて事でしょう、あかんぼうは泣き止み、にこりと笑ったのです。
 その笑顔はなんと可愛いことか。
「あ~う~」

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