小説

『横腹がビリリ』義若ユウスケ(『桃太郎』)

「やったことないですよ。でも、もしもいつかメジャーリーグからスカウトされるようなことがあったら、ピッチャーをやらせていただきたいですね。それ以外のポジションは、ちょっと考えられないなあ」
「そうか……。うん、なれるよ、君なら伝説の投手に」
「そうですね……」
ふたたび電車が止まった時、ぼくはでんぐり返りで外へ転がり出た。
駅のホームには鳩の群れ。
「ここはどこ?」ぼくは一番手前の鳩にたずねた。
「コケコッコー」と鳩はこたえた。
「え、なんだって?」
「コケコッコー」
ぼくは煙草に火をつけた。
「東京か……」
ふと見上げると、空では、なんと太陽と月が目まぐるしく追いかけっこしていた。
ぼくはため息をついた。
すると、ビリリ、と横腹が破れた。
うわあ、痛い。痛い。
これではもう、人生を続けられない……とぼくは思った。
だから、やめにしたよ。
なにを?
人生を。

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