小説

『ゆみこと柱神さま』はやくもよいち(『天道さん金の鎖』)

「化け物って、そういうものだわ」
「キュッ」

ゆみこのひとりごとに返事がありました。
動物の赤ちゃんが立てるような声です。

薄目を開けて、そおっと階段のあたりを見ると、クリーム色のぬいぐるみが目に入りました。
短い足でこちらへ向かってきます。

ゆみこが寝るときに抱っこするテディ・ベアに似ていました。
まだ顔は見えませんが、たれた長い耳が体の動きに合わせて左右にゆれています。

「やだ、かわいい」

もっとよく見たくなって顔を上げようとすると、柱神さまのお面が動きました。
身をよじって、ゆみこの手からとび出すほど暴れます。
あわててお面を胸に抱くようにして、体の下に押さえ込みました。

「顔を上げてはいかん。目を見てはいかん」

見たところ、とてもそんな恐ろしい化け物とは思えません。
でもおじいちゃんが毎日手を合わせて拝んでいる神さまの言うことです。
ゆみこは信じることにしました。

子犬が歩くようなかるい足音が近づいてくると、つんとすっぱいにおいが鼻を刺激しました。
急にのどがいがらっぽくなって、ゆみこは咳きこみます。

「だっこしてよ」

オドロゲが出しているのでしょうか。
鼻にかかった声がしました。

先ほどのぬいぐるみのような姿を思い浮かべて、「いいわ」と答えたくなりましたが、鼻が曲がるようなにおいのせいで、咳が止まりません。

返事をしないでいると、舌足らずの言葉でオドロゲが甘えてきました。

「ねえ、だっこしてよ」

ゆみこは左手で鼻をつまみながら答えます。

「いやよ。くさいもの」
「なんだって。おれ様がくさいだと」

オドロゲの声はガマガエルのように低く、にごっていました。
いら立っているのか、たまに金切り声がまじります。

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